照りつける太陽が気持ち悪い。







二律背反 3









起きたらイギリスの姿が消えていた。
腕の中の温もりの代わりに、空では太陽が容赦なくアメリカを焼き付ける。

慌てて起き上がり、眼鏡を探せば木の枝の一本に器用に掛けられていた。
アメリカはそんなことをした覚えはないから、きっとイギリスがやったんだろう。
寝相の悪かった自分が、間違えて壊したりしないように。
その上、太陽の位置が変わって木陰が小さくなったのをカバーするかのように上着で影が作られていた。





なにやってるんだろう。
アメリカは舌打ちを一つして、上着はそのままに薄手のシャツに手を通す。
気温は上昇しているが、この陽射しでは酷い日焼けになってしまう。
そんなことを考えながら、視線を辺りに巡らした。



イギリスは何処だ。
昨夜高熱を出していたイギリスが本調子とは思えない。

そんな彼がいなくなったのに気づかないなんて、と急いで海へ行こうと振り向けば、目の前には水の入ったペットボトルがあった。




「――――…な、なんだっ!?」
「起きるの遅いぞ、寒くて眠れなかったんだろ」
意地張るからだ、バァカ。



そこには、平然としたイギリスが立っていた。
尚も差しだしてくる水を、反射的に受け取ればイギリスが意地悪そうに笑う。

きっと、起きたときアメリカが隣にいたのを揶揄してるんだろう。




昨夜の面影など全くない、いつものイギリス。
そのことに拍子抜けつつ、アメリカは眼鏡を掛けることで気を落ち着かせた。

眼鏡を掛ける方が鮮明にイギリスが見える。
イギリスの、些細な表情の違いがわかる。




差しだされた水を片手に、アメリカは口端を上げて見せた。






「君が寒いっていってたから、一緒に寝てあげたんじゃないか。それに僕が寝坊したのは君の寝相が悪いからだぞ」
「馬鹿いえ。重っ苦しい腕巻き付けやがって、身動きできるわけねーだろ。抜け出すの大変だったんだからな」
「それは君が貧弱だからだろ。筋肉薄くて、頼りないぞ」

ちくん。と、痛んだのはなんだったろうか。
アメリカはイギリスの言葉に同時に苛々させられた。



人の気も知らないで。
なにを好き勝手言うのだろう。

ヒーローの自分が、苦しんでいる人を放っておけないのは当たり前で。
一生懸命様子を見守っていたのに、なんでそんなことを言う。





昨夜の記憶はないのか。

笑顔でアメリカがイギリスの薄い肩を叩けば、イギリスは思うとおりに何事か叫き始める。





あったら困るのは、自分だろう。
けれど、全くないというのはどうなんだろう。

確かに意識は混濁していたけれど。
とても辛そうだったけれど。





あの時間をなかったことにされるなんて、なんて酷い。







「てめぇが全身筋肉過ぎるんだよ!最近は脂肪まで付けて、そりゃ俺が勝てるわけねぇよな!」
「まだ僕は成長期だからね!鍛えた分だけちゃんと増えるし、無駄な脂肪なんてないんだぞ。君は懐古主義で後ろ向きだから、そんな小さいんじゃないのかな」
「小さくねぇよ!平均以上だ!!」

ムキになるイギリスは面白い。
アメリカは笑いながら尚もイギリスをからかう言葉を探して、ちくちくと痛むものから意識を遠ざける。





抱えた矛盾に、気づいてる。
だからといって簡単に消せるわけもなく、どうしようもない感情の行き先をイギリスに向ける。


そりゃあ、子ども扱いされても仕方ないのかもとわかるぐらいには、知っているのだ。
感情のままに行動するなんて、ヒーローのすることじゃない。




イギリスといると、本当にヒーローでいられない。

アメリカは自嘲気味に笑うと、今度は小さく文句を言い始めたイギリスに背を向けて、歩き出した。





「なんかないか探してくるよ。イカダの材料、もう少し補強したいしね」
「あ、ああ。気をつけろよ、怪我なんてしたって手当てする道具もねぇし…、倒れても俺じゃお前運ぶの、ちょっと無理だからな」


水を持った手を振れば、後ろからイギリスが心配そうな声を掛けてくる。
面倒が増えるとか、そんなことを言葉にするが結局はアメリカを心配しているのだ。










「―――…ああ、陽射しが強いな」

空を仰げば、強烈な陽射しが目を刺した。
何度か瞬きをすれば、ほろりと涙が零れてくる。
乾燥を防いでいるのだろう。
じりじりと焼き付ける太陽を見続けていれば、涙腺が壊れように涙が溢れる。



眼鏡が邪魔だった。
外して乱暴にしまいこんでしまえば、世界は薄ぼんやりとした物になる。



涙のせいで視界は一層不鮮明で、それでも無様な姿を見られたくないと歩き進めていればがつんと木にぶつかってしまった。
痛みにくらくらしてしゃがみ込めば、余計に涙が出てくる始末。

太陽は暑いし、鼻は痛いし、イギリスと二人きり。
本当に、なんて最悪なんだろう。




何で彼はあんなに、無意識に攻撃してくるんだろう。
いつも通りのイギリスだと思ったのに、あんな言葉をかけられてしまったらヒーローが消えてしまう。




言葉一つで動揺するのは、イギリスだけじゃない。
それは、アメリカも同じなのだ。
言葉一つで動揺する自分なんて、大嫌いなのに。






なんで、嬉しく思ってしまうんだろう。

「……イギリス、」


結局イギリスは自分には甘くて、優しくて。
自分の行動を否定させられる言葉を掛けられたときはあんなに苛ついたのに。
心配する言葉を掛けられて、嬉しく思う。



それが不満だと思っているのに。
そうでなければまた反発する。



嫌だ、こんな自分は嫌だ。
なによりも嫌なのは元気そうなイギリスを見て、嬉しく思わなかった自分だ。






「早く帰らなきゃ……」

二人でいると苦しさばかりが増える。
決して、傷つけたいわけじゃないんだと言って誰が信じてくれるかわからないけど、これ以上イギリスといたら互いに傷が付くばかりだ。






木の根元に転がっていたランプとマッチ。
そんなに汚れてもいないし、マッチもしけていない。

もしかしたらここは無人島じゃないのかもしれない。
そんなことを考えながら、アメリカはそれを手みやげにイギリスの元へと戻っていく。










この非日常に終止符を打つために。











-------------------------------------------------------------

本家さま遭難続ききましたー!v
ということで、新しく増えた部分で妄想です。
……ちょっとぐるぐるさせすぎたかと、反省。
イギリスは熱のせいでみごと全くなにも覚えていません。
つか僅かに覚えてる部分も夢だと思ってる。(爆)

一応幸せにしたげたいな、とは思いながら書いているんですが結果には全く反映してません。
反映させる気あったのかと言われればノーコメントですが。

も少し書いていきますよ遭難妄想…!

07/06/24





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送