強い陽射しが容赦なく体を刺した。
額の汗を拭って、息を吐く。
拭った先からまた吹き出してくる感覚に、またため息が出た。



まだ坂の半分も来ていない。
目を細めて目的地を見やったが、それは陽炎に揺らいでよく見えなかった 。
照りつける陽射しは体に熱を溜め、歩いている方がまだ発散されるだろう 。
止まった途端余計に暑くなった気がして、また歩を進め始めた。



かさり、と手にぶら下げた白いビニール袋が歩くのに合わせて音を立てる 。





坂の両脇は塀があり、そこから覗く木々は緑が濃い。
影を作って多少は助けてくれるものの、やはり暑いことには変わりなかっ た。


僅かな風で揺れるのを見ても、涼しさは到底感じられない。
てくてくと坂道を上りながら、少しでも暑さを逃すよう息を吐いた。







夏だ。
降りしきるような蝉の声を聞きながら、唐突にそう思う。

ミンミンと木々の狭間から聞こえるその声に、もの寂しさを感じられるよ うになったのはいつからだったろうか。
最初はノイズにしか聞こえないような虫の音だった。
それがこの国で聞くようになってからは、違う物に変わっていった。



この国にはとても似合っていたのだ。
木と水の匂いがする家。
風の通る道。
片隅に出来た影に、潜む静けさ。



真新しい畳の上で聞く蝉の声は、徐々に浸透していった。






「――――……、」

右手に提げた袋が嫌に重い。
暑さのせいか進める足は遅く、陽射しを余計に浴びた。



じりじりと焼き付けられる感覚。
頭上を啼く蝉の声は一層激しさを増している。





責め立てられているような。
嘆いているような。

その感覚の答えは、きっと何時までも得られないのだろう。









ざらついたコンクリートのゆっくりと。
けれど足を止めずに進んでいけば、徐々に目的地は見えてくる。

それでもまたゆらゆらとそこが危うげなく見えるのは己の気の持ちようか 、この暑さ故の陽炎か。
きっとその両方だと口端をそっとあげれば、視界が揺れた。




陽炎の揺らぎに、頭まで勘違いしてしまったのだろうか。
大きく体が傾いで、視界がぶれる。




倒れる、と思ったのはやけに冷静で。
けれど実際に倒れることはなく、気づけばひやりとした壁に手をついてい た。
咄嗟に体が一番安全な道を選んだのだろう。

壁は冷たく、木々の影にすっぽりと隠れた体は陽射しから逃れられて安心 したようだった。
降りしきる蝉の声は変わらず、耳の奥までミンミンと鳴っていたがそれで もほっと息を吐く。




途端、袋から中身がこぼれ落ちた。
みずみずしい、白桃。
握っていたはずの持ち手の片方が外れて、そこからころりと飛び出した。

あっと口を開く間もなく、桃は落下する。
ぺしゃりと潰れた桃は辺りに甘い芳香を散らした。




ぐじゅぐじゅの白い実に手を伸ばそうとして、握り込む。




陽射しが桃を容赦なく刺していた。
蝉はわんわんと空に地上に向かってないていた。










ああ、きっとあの日もこういう日だったのだ。
八月の真っ青な空を見上げて、ほど近いその場所へと向かっていった。
-------------------------------------------------------------


07/08/06





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送