・捏造香港が出てきます。(国と同じく、擬人化しています)
 捏造香港紹介は→
・デリケートなネタですが、政治的意図は全くございません。
・色々妄想多数ですので、何が来ても大丈夫!という方のみご覧下さい。






















夏が終わる。
夏が始まる。

変わっていってしまうことを、変えられない。







夏夜睥睨









「いよいよ明日…、そう言ってももう数十分ってところだけどな」


イギリスが呟く。
二人きりの部屋で、それは酷く響いた。
窓の外では宴の準備が行われている。
ガラスに広がる夜の街は、百万ドルとも謳われるその姿。

静かにそれを見下ろす人を、電気も付けない暗い部屋でただじっと見つめ ている。




「香港。聞いてるのか?」




聞こえている。
けれどそれを理解したくないのだ。
香港は、ぎゅっと服を握って同じように唇も噛み締めている。
イギリスはそんな香港に視線をやったが、しばらくの後ため息と共に外へ と視線を戻した。

距離にして一メートルもない。
けれど、香港が見つめるイギリスの背中は嫌に遠かった。
少しだけ足を進めて。
手を伸ばせば、イギリスに届くのに。

それが出来ずに香港は、時計を睨み付けた。



歴史的瞬間。
そんなもの欲しくなかった。
今頃近隣の国でもニュースで取り上げられてるのだろう。
国民、ではないが香港の住人達も宴の準備を着々と進めている。





「もうすぐ中国が来るぞ。お前、いい加減に着替えとけ」
「―――…嫌」
「……ようやく口開いたかと思えば、嫌ってなぁ…」
「嫌、です。これは私の誇り。貴方と共にあった、証」



カチカチと秒針が進み、短針も長針も互いの距離を縮めている。
自分も、イギリスとそうなれればいいのに。


香港はじわりと浮かぶ涙を堪えながら、ようやくのことで言葉を発した。
なんでそんなにあっさりとイギリスは言えるんだろうか。

香港はシャツが皺になるのも構わずに、一層強く握ってイギリスを睨み付 けた。
イギリスは、そんな香港をやはり静かに見つめている。




「植民地が誇りかよ?」
「ええ、そうです。所詮私は植民地。けど、此処まで大きくなれたのは、 貴方のおかげ。私はそれを忘れるほど愚かじゃない」

イギリスが、香港の言葉を一笑に付した。
けれど香港はその嫌な笑いを気にすることはなく、その黒の瞳でイギリス を真っ直ぐに射抜く。
黒々とした瞳であるのに、時折差す光は極彩色をしていた。
香港の夜景を、そのまま映し出したような瞳が、密かにイギリスの気に入 りだったことを香港は知らない。

少しだけたじろいだイギリスに、香港は一歩前に踏み出した。




「なんで、なんで中国さんなんですか」
「元々お前は中国のものだからだ」
「今更じゃないですか!もう私と中国さんじゃ考え方も体勢も違う…、そ れなのになんで!私は独立したいだなんて貴方にっ…」


ヒュ、っと目の前を風が切った。
何が起こったのか把握するよりも先に、喉に圧迫感を感じ背中が痛む。
至近距離でイギリスが香港を、睨み付けていた。


「黙れ」
「―――…イギリス、さ…」
「それ以上言うな。理由?理由を知りたいなら教えてやろう。お前を植民 地にしていても俺にはメリットがもうないからだ。むしろデメリットばか りと言っていいだろう」


イギリスの深い緑の瞳が香港を映し出している。
迷子になった子どものような顔をして、馬鹿みたいにイギリスを見つめて いる。
イギリスの眉間に刻まれた皺の深さに、香港は目の奥が熱くなっていくの を止められない。




「お前のところの財政は中国の影響を大きく受ける。他人のところの経済 情勢をとやかく言えはしないが、それでもお前は二度ほど死にかけてる。 それを補うのは俺であり、国民だ。この状況下じゃ香港維持は厳しい、そ れが理由の一つ」
「――…ひと、つ…?」
「二つめはお前と新界が大きく関わりすぎた。今じゃ新界なしじゃお前の ところの経済は成り立たない。けれど新界は中国に帰ることが決定してい る、あと2年だ。俺がお前を統治すると言っても、結局お前は中国がいな きゃ破綻するんだ。それを俺が補うのは、そこまでしてお前を統治するメ リットは、ない」



そこまで言ってイギリスが離れた。
支えを失った香港は、壁伝いに床にへたりこむ。
強くイギリスが掴んでいた腕が痛んで、解放された喉元は汗ばんでいた。

ひくりと、瞼が震える。


イギリスの手は骨張っていて、腕に食い込んで仕方なかった。
痩せたのだろう。
確かに、返還に関して何度も会議は行われたし香港の住人達は慌ただしく イギリスは今日まで香港の宗主国であるからしてその対応に追われていた 。


これだけでも、香港はイギリスの負担になっている。



腕がじわじわと痛んで、喉がしゃくり上がった。
駄目だと思ったときにはもう遅い。
ぼろぼろと目から溢れ出す水滴を止める術を香港はもたなかった。
シャツで目元を擦り上げていれば袖は程なく濡れそぼり香港の肌にまとわ りつく。

嫌だ。
嫌だ。

香港はこんなにも叫んでいるのに、返還の手続きは香港抜きで進んでいっ た。
植民地であることが終わる。

それは、本来なら喜ぶべき事だろう。
実際に宴の準備が行われ、この七日間はお祭り騒ぎだった。



「何を嘆くことがある?香港」
「―――――…ぅ、ふっ…うぇっ…」
「中国はお前に充分譲歩したし、俺の国民もそこそこに納得している。俺 の元では植民地なお前は、中国の元では特別行政地区。お前は俺が残した 古い体勢の遺産。新しい時代に向けては、不必要だ」

淡々とイギリスが香港に対しての事実を述べていく。
香港は尚も顔を擦りながら、イギリスの言葉にただ頭を横に振るだけだ。
違う、違うのだ。


その一言を述べるには多大な努力が必要で、香港は言葉を喉でつまらせた 。




なんでこんな単純なことがわからないのだろう。
香港は、ぼろぼろと泣きじゃくりながらイギリスを見ようと努力した。
もう消えてしまう人を脳裏にとどめようとした。




「お前がこれからどう展開していくか、楽しみだよ。俺が用意した自治国 家。まぁ、それは中国がどうするかも勿論影響するんだけどな」



イギリスが笑っている。
けれどその歪んだ笑いは上滑りで、もう離れていってしまうこの人を止め る術が香港にはない。








傍にいたい。
それだけの望みが、叶わない。







香港はただ泣きじゃくる。
嫌々と首を横に振る香港に、イギリスはため息を吐いた。
軽やかな足取りで香港の元までくると、しゃがみ込んでイギリスは香港の 頭を撫でる。
ぐちゃぐちゃになってしまった髪の留め具を外し、その漆黒の髪をさらり と指で零した。
日本や中国のような、濡れたような質感は極上の糸のようでイギリスはふ っと表情を緩める。


香港は俯いたままで、しゃくりあげている。
小さな体を震わせている姿は本当にただの幼い子どもで、イギリスはため 息を吐きながらも香港の髪を指で梳かしつつ背中をさすってやった。



泣くなと言えば余計に肩を震わせる始末。
明日は酷い顔になってるんだろうな、とそんなことをイギリスが考えてい ればカチ、と時計の針が最後の動きを示した。






カチリと。
無機質な音が部屋に響いて、歴史的瞬間が訪れる。












ドォォォォン!!
一際大きな音が空気を震わせ、部屋を極彩色に映し出した。
ぱらぱらと乾いた音が続き遠く歓声が聞こえる。







「―――…時間だ、」
「―――…っ!!」
「中国が、来たな」


コンコンとドアがノックされる。
イギリスはあっさりと香港から離れると何事もなかったかのように立ち上 がった。

すたすたどドアへ向かうイギリスに、香港もふらりと立ち上がる。




「イギリスさん!」
「じゃあな、」


香港は掠れた声でイギリスを呼ぶ。
けれどイギリスは振り向きもしないで片手を振っただけだった。
パタンと軽くドアを閉められる音が、二人を遮断する。




あっけなく、イギリスの最後の植民地はいなくなった。
いや。
香港の、絶対の人がいなくなった。








どんなにドアを睨み付けてもイギリスが入ってくるわけもなく、新しい夏 の夜の始まりに香港の夏は今終わってしまった。

きらきら光を零す優しい太陽は、もう見られない。













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捏造香港で、香港とイギリス。
丁度今年は10年の節目になりますね、と7月1日に合わせてぎりぎり6月30 日にアップです。
朧気ながらテレビでニュースをやっていたのを思い出しているんですが、 いっぱいの打ち上げ花火に人々の歓声と喜びに満ちていた映像な気がします。
けれど調べてみると香港の人は決してこの返還が嬉しくなかった模様…? ということでこんなものが!
香港は特別行政地区だし一応中国からの相当の自由を保証されている、と いうことで擬人化してもいいかしら…と捏造香港です。
香港は、イギリス大好きだと良いと思う。(そこはまた複雑なんでしょう けど)
しかしデリケートなネタですので、色々ネットで見てみたはいいものの難 しい…orz。
こんな複雑だったんだなーと思うとあの頃の自分にニュースみとけ!と思 ってもかわるまい。小学生じゃ理解できなさそう…。

引き続き中国とイギリスの話をアップしたいと思います。

07/06/30

反転にて矢印メニュウ。





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