「フランスさん、こんにちは」
「こんにちは、日本。よく来たな」




この上ないもてなしを、貴方へと。







ひとり咲くのか夏雪草












「うわぁ……、やっぱ日本の菓子ってキレーだな。これ、何て言うんだ? 」
「上生菓子のひとつですね。それは紫陽花を象った物で、中は小豆あん、 外側は寒天を小さく切った物がまぶしてあります」
「こっちのひんやりしてるのは?」
「くず餅です。上質な葛を使ってるので、のどごしもよろしいですよ。中 に白桃を入れた物とこしあんを入れた物があります」



日本が持参した黒塗りの重箱(これがまた美しい漆塗りだ)の中には、色 とりどりの菓子が行儀良く並んでいた。
フランスの菓子とはまた違った魅力に、フランスは素直に引き込まれる。
ひとつひとつ丁寧に説明する日本も、楽しそうに口元を緩めていた。



「じゃ、こっちの涼しげなのは…」
「琥珀菓子…、私はこれを氷菓糖と呼んでいますが。材料を固めて切り分 けてから表面を乾燥させ、砂糖の層で覆ってるんです。外側は固くて、中 は柔らかいので食感を楽しんで欲しいお菓子ですね」
「地味っぽいけど、この上品なの」
「流石ですねフランスさん。アメリカさんには見向きもされなかったんで すよ…、じょうよ饅頭と山芋を摺り下ろしたものを皮に混ぜてすごく滑ら かな生地で、和三盆を使ったこしあんを包んでいます。上に乗っているの は金箔です」



日本が苦笑混じりに、その金のアクセントと白が慎ましいイメージを抱か せる菓子の説明をした。
フランスもなるほど、と頷く。
確かにアメリカにとって日本の菓子は地味に見える物が多いかもしれない 。
物によっては甘みの強い物も多い日本菓子は、食べればきっとアメリカの 気に入るところであろう。
ただし、日本がアメリカ菓子を気に入ることは中々ないともフランスは思 う。

もう少し砂糖の使い方が上手ければ美味しいだろうに、と考えてアメリカ の育て主を考えれば無理からぬ事かとその不機嫌そうな顔を思い浮かべて フランスは苦笑した。

いや、そうではないか。
フランスはすぐにその考えを否定する。


逆に、なぜあの育て主の茶色や褐色の多い菓子を見て食べて育っているだ ろうにあれだけ原色派手な菓子ばかりを好むのだろうかという疑問を抱く ところだ。
彼自身の料理の腕は相当に手遅れであるが、ティーフードに関しては別で ある。
茶の入れ方は文句の付きようがないほどに完璧であるからして、それとと もに茶会を彩る菓子は、彼の腕は悪くない。(そしてそれは己の指導の成 果もあると自負できる)
日によってばらつきはあるが食べて美味しいと思える物も確かにあるのだ 。
見た目はやはりどうしようもなく地味であるが。
それでも、バターの芳醇な味やアーモンドの香ばしさなどは素晴らしい物 があった。


添えられるジャムやフルーツソースも見事な物であり、つまるところ彼は 砂糖の使い方は上手なのだ。
塩の使い方がいかんせん致命的に下手であるが。(ついでに食材の扱いも 食材に対して申し訳なくなる)



「良かったです、気に入ってもらえたみたいで。誕生日のプレゼント、フ ランスさんならこういうものも喜んでもらえると思ったんですが、やはり 少し不安で」
「料理好きだし、他国の料理も興味あるからすごく嬉しいよ。日本の料理 は特にそうだ。素材の味を生かすために最小限しか塩を使わないのが和食 、素材の味を殺さないギリギリまで塩を振るのがフレンチっていうし…似 ているようで全く違う」




日本が此処に訪れているのは他でもない、わざわざフランスにプレゼント を渡すためであった。
立派な漆塗りの重箱。
そこに収められた菓子はフランスの気を惹くに充分で。
菓子に合わせた茶やらなにやらもあるならば尚更だった。

フランスは日本に礼を述べつつ、改めて重箱の中を見つめる。
淡い色合いからはっきりとしたコントラストを描く物。
冷菓、生菓子、焼き菓子と三段の重箱は見た目もバランスも素晴らしい。

フランスは焼き菓子の一つに手を伸ばそうとして、ぴたりとその動きを止 めた。
よく知った形状の、菓子がある。
それは決して日本菓子でなく、フランスも幾度か口にした代物だ。

口にして良かった想い出がなければ体は反射的に拒否反応を示すだろう。
日本は、フランスのそんな態度に首を傾げながら問うてくる。




「どうしました、フランスさん?」
「………日本、ええと、これ、は…?」
「ああ、フランスさんならご存じでしょう?スコーンです。綺麗な焼き色 でしょう」

にこりと微笑む日本に、フランスはぎぎぎと首を鳴らしながら日本と向き 合った。



「なんでスコーンなんだ…?和菓子じゃないだろ?」
「イギリスさんが教えてくださったのを作ったらとても美味しくて。一つ ぐらい、口慣れた物があった方がよろしいかと思ったんです。クリームも

ちゃんと持ってきてありますから、あまりもたないくず餅と、スコーンで お茶にしませんか?組み合わせに応じて茶葉持ってきたんです」



満面の笑みを浮かべる日本に、フランスは応と首を縦に振るしか手段はな かった。











「やっぱりスコーンにはミルクティですね。くず餅には少しミルクの風味 が強すぎますので、ストレートのダージリンにしましょう」
「日本茶じゃないのか?」
「和菓子にも紅茶はよく合うんですよ。イギリスさんに教えていただきま した」


手際よくお茶の準備をキッチンで始める日本に、フランスは素朴な疑問を 口にした。
目にも美しい日本の菓子。
それにあわせるのならやはり日本茶、抹茶に玉露、煎茶にくき茶…そう言 ったものだと思っていた。
興味があって調べたこともあるが、他でもない隣人によって日本茶の知識 をフランスは得ている。

そういったときの彼の顔はひどく幸せそうで、こんな時間が続けばいいと らしくもなく思ったものだった。






「へぇ…それは楽しみだな。日本茶も楽しみだったけど」
「そちらも用意してありますので、よろしければ点て方をお教えしますよ 。きっとフランスさんならすぐに覚えられるでしょうし、イギリスさんに お聞きすれば問題はないと思います。イギリスさん、日本茶を入れるのも とてもお上手なんです」

水を沸騰させて、日本はカップの中に湯を張った。
ティーポットの中にも同じように湯を満たす。
クリーマーもその中に落としてしまって、意外な大雑把さを日本は見せた が湯をあたりに飛び散らせることはない。





「フランスさん、オーブンをお借りしたいんですが…」
「あ、ああ火は付いてるからいいぜ?スコーン温めるのか?」
「はい。温かい方がやはり美味しいですし……少しでも出来たてに近づけ たいので」


そう言う日本は少し目を伏せて、大事そうにスコーンを扱う。
愛しげに見つめている、と思うのは気のせいだろうか。
寂しげに見えるのも、気のせいだろうか。



その先に誰かを見ていると思うのは、気のせいなのだろうか。









「さ、用意できましたよフランスさん…、フランスさん?」
「……流石日本、手先が器用だ。折角だから庭で食べないか?薔薇が綺麗 に、咲いてるんだ」

日本の声にフランスは我に返った。
キッチンテーブルの上には、完璧に用意された菓子と紅茶が並んでいる。
フランスは訝しげに、そして心配そうに窺ってくる日本に急いで笑顔を作 った。

日本は、それでもどこか思案げにフランスを見やっていたが庭の方向を指 さすフランスに云と頷く。
日本は聡いし、弁えている。


どこまで踏み込んで良いのかよくわかっているし、それ以上は触れてくれ るなと下手な動作にも誤魔化されてくれる。



その聡さはありがたく思いながらも、寂しさも共に連れてくるのは何故だ ろう。





お茶のトレイを片手にフランスは、日本の背をイギリスにだぶらせながら庭に案内するのだった。








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遅くなりましたがフランスお祝いです。
仏英いいつつ、イギリス全く出ていませんが(爆)

思ったより長くなってしまったので前後編。>
後半は仏英っぽくなるはずです。
……私的には、なってる。うん…!

イギリスは、ティーフードに関してはそこそこ作れると思うんですがどうでしょう…。
バレンタインがお菓子テロだから悩んだのですが…(苦笑)
フランスがつきっきりで指導すればときに成功もあるに違いないとしてみました。
でもイギリスが作ったものはともかくとして、フランスはイギリス菓子に関しては認めていそうです。
地味だけどやっぱり美味しいよ、うん。
料理は論外ですが(笑)


07/07/26





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