おさとう スパイス すてきななにもかも


そんなもので、出来てるの








ストロベリーケーキ、ラズベリージュース、キスフロムユー










「―――…なんで俺がてめぇの隣で寝なきゃなんねぇんだよ…」
「折角日本が用意してくれたのにその言い方はないだろー。俺としてはアレだ、枕はふたつ、布団はひ・と・つってのを」
「死ね馬鹿変態俺の布団に一ミリでも入ってみろ速攻で部屋から追い出すぞ」






灯りを落とした部屋の中で、フランスとイギリスは布団を並べている。
用意された部屋にすでに隣同士並べられていた布団に、イギリスは固まり立ち直ったかと思うと引きはがしにかかったがフランスの言葉でそれは止められた。


『日本が用意してくれたの、そうすると日本が気に病むぜ?』


ぴたりと動きを止めたイギリスに、フランスはによによ笑いながらさっさと布団に入った。
何事もなかったように布団に横になるフランスに、イギリスも不承不承としながらもフランスに倣う。

枕元の灯りを落とせば、部屋は障子越しの月明かりだけで照らされる。
青白い部屋の中で、フランスはそっとため息を吐くと目を閉じた。




夕飯と風呂を貰い、それぞれ宛がわれた部屋へ向かうとき日本から送られた意味ありげな視線。
アメリカではないので意味するところは間違いなく受け取ったが、正直言って難しい。


ごそごそと居住まいを正す衣擦れの音が暫く部屋にしていたが、やがてはそれも止み沈黙が部屋を支配した。
耳が痛くなるほどの静寂に、なにか話そうと思うのだが上手い言葉が思いつかない。

いっそのこと襲ってしまおうかと考えていれば、隣のイギリスが大きくため息を吐いて悪態を吐いてきた。




条件反射とは恐ろしいもので、長年付き合ってきた彼の言葉にフランスは

いつもの調子で言葉を紡ぐ。
すればイギリスから鋭い視線を向けられるのもいつものこと。

いつも、であればもう手も足も出ているところだろうが流石に日本の家でそれは自重しているらしい。
ふんっと鼻息荒くフランスから視線を外したイギリスは、仰向けで天井を見つめていた。
何か見えるものでもあるのだろうか。


フランスはイギリスのように天井を見つめてみたが、木目が段々怪しく見えるだけで特に何も見いだせなかった。

勘違いか、とイギリスお得意の目に見えぬ何かを予想していたフランスはとたとたと廊下を歩く小さな足音に気づいた。


日本やアメリカにしては重量が随分と小さい。
日本は一人暮らしだったはずだがと考えていれば、イギリスがいつの間にかフランスを見つめていた。




「―――…聞こえたのか」
「あ、ああ?足音のことか?聞こえたけど、お前誰のものか知ってるのか?日本って、一人暮らしの筈じゃ…」
「一人暮らしだ」

ぽつん、と落とされた言葉の続きがわかってしまったフランスは、かしかしと髪をかき混ぜた。

無意識だから質が悪い。
そんな寂しそうに言われてしまっては、どうにかしてやりたくなるのが人情ってものではないだろうか。


日本の文化にとっぷり浸かっているフランスは、そんな言葉を自然思い浮かべながらごろんとイギリスの方に体ごと視線を向けた。
月明かりはフランスの背中側。
イギリスと相向かいになる形で、フランスは手を伸ばす。




「お兄さんが撫で撫でしてあげるから泣くんじゃありません〜」
「――…てめぇ殺されたいんだな?」
「五月蠅くすると日本が起きるぜー?アメリカもかな。いやあいつは寝汚いしなー、起きないかな。起きたら起きたですげぇ五月蠅くて日本迷惑だろうなー」

によによするフランスに、イギリスは言葉につまって殺気を霧散させた。
本当に日本には弱い。
同じ島国と言うことで、気質も似ているのだろうが日本の人柄もイギリスを素直にさせる要因だろう。
日本との対立は確かにあったが、それでも個々で大きく対峙したことはない。

まぁアメリカにも弱いけどとフランスは苦笑しながらイギリスの髪を浚った。
さくさくと零れる髪が指に馴染む。
いつかの日だまりの匂いがした気がして、不覚にも涙腺が緩んだことはイギリスには内密だろう。




あの幼子。
日だまり、緑、土の匂い。
ときに海を纏い、ベリーや、蜜の香りもさせていた。




不似合いな血の匂いや饐えた匂いも時にはあって、そんなときは必ず差しだしていた甘いもの。
あの幼子に渡したものはなにがあっただろう。

はちみつミルクに始まって、ビスコットにジャム。
口も手もべとつかせながら懸命に食べる様子は、フランスをらしくもない庇護欲にからせたものだった。





あの子は、何が一番好きだった?







「―――…フランボワーズのケーキ、作るんだったな…」
「あ、ああ。どうしたよ、いきなり」
「お前ら、気にしすぎ。そりゃ確かにアイツを祝う気があるかって言われれば、別問題だけど……」

イギリスが緑の瞳をぱちぱちと瞬きながら、重そうに口を開いている。
うつうつと、頭が揺れているのを見ると単純に眠いのだろう。

確かに忙しい日ではあった。
明日も忙しい。
けれどフランスの前で、こんなにも無防備というのはやはり精神が疲労している証拠なのだろうか。



舌っ足らずな言葉に、いつかの幼子が重なった。








「俺にはさぁ、俺が見えないって人、いないし」
「―――…イギリス?」
「ケーキ作ってくれる、奴もいるし。ラズベリージュースも、ついでに作れよ」


ふ、と零した笑顔は誰に向けてのものだったろう。
月明かりがイギリスの髪を照らし、光を零した。

とろんとした瞳は細められ、緩やかな弧を描く唇からは穏やかな音しかでない。






不機嫌ではない。
むしろ、上機嫌。

夢と現に彷徨っているのだろうが、それでもそれ以上に彼をこうさせているのは、間違いなく彼の言葉なんだろう。





容赦なく傷を付けるかと思えば。
際限なく、甘い言葉を囁く。






フォローもケアも必要なんてなかった。
そんなのは、思い上がりだった。








「ドイツだって、最近、誕生日出来たばっかだし……」
「―――…イギリス、」
「そのうち、出来るかもしれないだろ。だからんな、なんでお前が泣きそうなんだよバァーカ」

気持ち悪ィとくすくす笑いながら舌っ足らずに紡ぐ言葉は憎たらしい。
けれど笑う顔は幼くて、まさかショックのあまり薬でもやったんではなかろうかとあらぬ疑いをかけるが、そんな時間はなかっただろう。
特有の甘い香りもしない。


素直に笑うイギリスが、イギリスでないようでフランスは視線を外した。
仰向けになって、また天井と睨み合う。




あの子どもは、よくフランスに突っかかってくる。
フランスの位置が羨ましいのだろうと、容易にわかるがフランスだって彼が羨ましい。


あんな言葉。
彼でなければ言えなかっただろう。




多分何よりの贈り物を、あっさりと彼は彼に渡したのだ。





「なぁフランス」
「んだよ、お子様はとっとと寝ろよ」
「お前、何が欲しい?」




じわじわと、胸に巣くう気持ちを知られたくなくてフランスはイギリスの頭をぽんぽんと軽く叩いてやり過ごそうとした。
彼が彼の兄であるならば、自分は彼の兄でありたい。
そんなちっぽけなプライドと戦っているフランスを尻目に、イギリスはふわふわと尋ねてきた。


何のことかと一瞬考えるが、あの子どもと同じく差し迫ったフランスの誕生日のことだろう。




何が欲しい。
聞かれたのは初めてかもしれないその言葉に(大抵はフランスが先に要求するからだが)、それを引き出したのも彼なんだろうと思うと気が滅入る。

何時の間にこんなに余裕がなくなったんだろう。
そんな自分を自嘲しながらフランスは正直に答えた。






「いらねぇ」
「なんでだよ」
「なんででも。―――…まぁ、強いて言うなら、お前の誕生日、かな」





ぽろっと、口から零れた言葉に自分でも驚いた。
フランスはあいつじゃあるまいし、と言ってしまった言葉に激しく後悔しながら零れたミルクに嘆いてしまう。

別に、あの子どもと同じになりたいわけじゃない。
単純に、このひねくれ者のいじっぱりを、気兼ねなく理由付けもなしに祝う日が欲しいだけなのだ。




腐れ縁の喧嘩友達で、何十回も何百回も苦汁を飲まされてきたけれど。
それでもイギリスがいたおかげでフランスの世界は楽しかった。

きっかけもなしにそのことを感謝するにはお互い年を重ねすぎていて、誕生日さえあれば、よかったのにと、何度。






「じゃあ、ストロベリーケーキ」
「――――……は?」
「俺の誕生日、出来たらお前、ストロベリーのケーキ作れ、な」


ぐるぐる回る思考のフランスに、脳天気とも言える声がかかった。
繋がらない言葉にフランスが思わずイギリスを見やれば、イギリスは満足そうに寝息を立てていた。




機嫌が良かろうと悪かろうとイギリスはやはりイギリスだと言うことか。
自分の言いたいことだけ言って、眠ってしまうとはどういう了見か。
フランスを混乱に落としながら、気持ちよさそうな寝息を立てるイギリスに少しばかり殺意が芽生えても当然だろう。

このまま本当に襲ってやろうかとフランスは脱力しながらも、ストロベリーを使ったケーキのレシピがものすごい勢いで頭を巡るのに苦笑した。





「―――…ふわふわの白いクリームに、真っ赤な苺。卵色の、甘いスポンジ……好きだったよなぁ……」

ふに、と鼻を摘んでやればイギリスの眉間に皺が寄った。
それをみて少しばかり溜飲を下げたフランスは、静かに目を閉じる。




まだ料理にそこまで詳しくない若い自分が作った単純なケーキ。
日本で言うショートケーキに近いものがあるそれを、目を輝かせて食べていた幼子。




また、そんな姿が見られる日が、来るのだろうか。









いつか、イギリスに誕生日が出来る日が来るのだろうか。
それはつまり歴史上に残る出来事がなければ無理で、イギリスという名前を背負ったイングランドの彼は独立という手段もあり得ない。
彼がイギリスである限り、いつかというのは永遠にいつか、な気がしてならず。
フランスは、うっそりと笑うのだった。












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メリカ祝いはどこいった。

仏英にて締め。
イギリスがあり得ないくらい素直になってしまい反省。(え)
でも日本の家だし、座敷童いるし、疲れて眠たければ多少は素直でも良いんじゃないの感じです。(投げやり…!)

ギリスはきっとそこまで誕生日を気にしてないような気もします。
ただ、やっぱりアメリカの誕生日、が特別であって。
目に見えない友が多いイギリスにとっては、誕生日も通過点に過ぎずもしかしたらなくなった日、とかの方を重要視してるかもとも。(某ファンタジーのエルフですねそれは)

仏米英サンドっぽくしつつ、ちびりすはお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来てるんだよと叫びます。
本当にまとまらなくて反省の限りです。
今度こそ一気に書き上げる……。(時間あくと駄目になる傾向が強い…)


07/07/07

反転にて矢印メニュウ。





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