「そういえばそろそろアメリカ君の誕生日ですね……」

日本はふと見やった暦を見て、予定の一つを思い出す。
自分も誕生日の際は盛大に祝ってもらった。
それ相応のお返しはしないとと、水無月のページをめくって文月に予定を書き 込む。

彼は派手で賑やかなことが好きだから、前もって各国とそれなりの準備をした 方がいいだろう。
日本はその派手なことの中心にいることは苦手であるが、イベントごとの計画 を立てるのは得意であった。
どうせ自分がスポンサーにされるのだし、せめて自分の意向は通しておきたい と日本は予定を組み始める。



イタリア、ドイツにフランス。
ギリシャやポーランドも協力を頼めば手伝ってくれるに違いない。
トルコもそうだろう。
中国もなんだかんだで来てくれる。
日本は友人たちの顔を思い浮かべながらまた、それぞれの誕生日に思いを馳せ た。
彼らの誕生日には何をしようか。



楽しいことを考えるのは、それが相応の労力を伴うことであっても幸せになれ る。
自然口元を緩める日本は、一人の青年を思い浮かべてはた、と気づいた。
アメリカの誕生日に複雑な思いをいまでも抱いている彼。
勿論表立ってだすことはないし(フランスに言わせればことあるごとに愚痴る 、だそうだが)協力もしてくれるだろう。



日本が思ったのはそこではなかった。






「……イギリスさんの誕生日を知りません」

梅雨入りをする前の水無月の、よく晴れた日のことだった。








Re; birth











「ウェディングケーキ以上に豪勢ででかいやつを中央におくのはどうだ」
「会場に入ったときインパクトがあっていいですね。どんなケーキを?」
「そうだな…夏だしフランボワーズを使って淡いピンク色のクリームなんてど うだ?」
「美味しそうですね、それなら色合いも綺麗ですし」
「僕はピンクならショッキングピンクがいいぞ!その方が綺麗だ!!」
「却下します」




日本は現在自分の家で誕生日パーティの計画中である。
会議で集まった際に、時間に都合のつく人を呼んだ次第だった。







『今日は無理だが、明日なら大丈夫だ』
『俺も俺も〜!遅れる分ちゃんと手みやげもってくからね☆』

『上司の機嫌悪いある。暫く行けないある』
『あー、今回の会議は無理だけど、次の会議ン時行くからー』

『日本の家かー、行く行く〜』
『お前上司と帰らないで良いのか?』
『だって俺んちいま怖いもん戒厳令出てるし日本の家行って見てぇ』



そんな会話を交わしつつ、現在日本の家にいるのはフランスとイギリスだ。
フランスの言葉に日本は本当にいいのかと思ったが、彼らは日本と違い曖昧な

態度は取らない。
本当にいいのだろうと結論づけて日本は二人を家に招いた。
そこまでは良かった。











「なぁ日本なんでアメリカまで居るんだっけか?」
「どれだけ言ってもついてきてしまったからです」

日本、そしてフランスとイギリス。
三人は出された茶を飲むこともそこそこに、座卓で顔をつきあわせて計画を立 てている。
そこにことあるごとに口を挟むのは、他でもないアメリカだった。
両手で湯飲みを抱えながら、にこにこと三人を見守っている。




『どうしたんだい三人そろって』
『ああアメリカくん。積もる話もあるので集まろうかと言っていただけですよ 』
『もしかして日本の家へ行くのかい?』
『ええ、まぁ。外の店だと目立ちますしね』
『なら僕も行くッ!仲間はずれなんてひどいぞ!!』
『仲間はずれとは違うんですが……』
『じゃあ一緒に行ってもいいんだな!』
『それはちょっと…。大変申し訳ないのですが、お二人と大事な話があるので す』
『嘘だ!僕以外の国にはさっきから話しかけてたじゃないか。ヒーローを抜か

すなんて、もしかして悪の密会かい!?』
『違います』
『じゃあ僕が行ってもいいだろう?』
『……本当はあまり言いたくなかったのですが、悪いことでなくアメリカくん の話をするのです。だから、』


ニュアンスで察して欲しかった。
けれど、相手は日本ではない。
アメリカだ。
空気読めないアメリカくんなのだ。





『じゃあ僕が行った方がいいじゃないか!』





晴れ晴れとした笑顔で言い切られ、日本は肩を落とすしかなかった。
両肩にそれぞれフランスとイギリスに手を置かれ、彼らはそこで初めて口を開 いた。




『あきらめよう日本』
『核心部分は隠せばいい。だいたいの進行ぐらいなら、聞かせてやろう』






そうするしか手はない。
日本は、その言葉に後押しされる形で不承不承頷いた。
アメリカが喜んでくれたのが幸いだろうか。

確かに本人の意見も取り入れながら、サプライズ要素を加えれば一番いいパー ティになるかもしれない。
嬉しそうに日本の家へ向かうアメリカを見てそう思った日本は、それが自分の 現実逃避だったことを知る。





少しづつ進めようとしては、アメリカの意見で話の腰が折れる。
気持ちを切り替えようとしても、一人で放っておかれることにアメリカが不満 を示し相手をしなければならない。
フランスやイギリスがアメリカに怒鳴っても手を上げても結局時間ばかりが無 駄に過ぎるばかりだ。


ショッキングピンクのケーキなんて考えたくもない。
日本がまだ何か言い足そうなアメリカの口に、鹿の子を放り込んで黙らせる。
これはまた別の機会を設けた方が良さそうだと、日本がほぅっとため息を吐け ば同じようにため息を吐いたイギリスと目があった。


疲れた笑みを日本が浮かべれば、イギリスも苦笑で返してくる。
握っていたペンを投げるように座卓へ置いて、イギリスは麦茶に口を付けた。
レポートには生真面目な字が並んでいるが、どれもが上からバッテンが書かれ ていて台無しだった。


日本がレポートに視線をやったのがわかったのか、フランスも力なく笑ってい る。
畳に手を突いて天井を仰ぐフランスが唸るような声を上げるのに、イギリスがみっともないと小突いた。
フランスがそんなイギリスにちょっかいをかけ始める。
そしてさらにイギリスの悪態が口を突いて出てくるのに、日本はほっと胸をな で下ろした。



いつもの、イギリスだ。
日本が笑ったのを、イギリスが勘違いしたのか顔を少し赤くして謝ってくる。
それをによによと笑うフランスも、いつもの通りだ。






日本は、イギリスを話し合いに誘うかどうか迷っていた。
アメリカの誕生日。
それはつまり、アメリカがイギリスから独立した日だからだ。

日本はその戦争に関わっていない。
けれど世界の歴史を学ぶのに、アメリカ独立戦争は欠かせない歴史として日本 の教科書に記されている。




だからこんなイギリスが見られることに日本は安心した。
やはり少しイギリスは口数が少ないように思えたからだ。
無論、話し合いをしに来たのに無駄口を叩くような人物ではないが、それでも 玄関に来た途端独り言を呟いていれば余計心配になる。



『またお前か』
『お前はずっと可愛いな、けど、今日は静かにしてろよ?』






誰に話しかけているのかも不安だったが、その言葉自体が余計に日本の不安を 煽った。
フランスが一瞬見せた、歪んだ表情を見れば尚更だ。





フランスは先の戦争に直接関わっている。
一番後ろを静かに歩くイギリスを気にするフランスに、日本も気が気でなかっ た。





けれど、この様子なら平気であろう。
喧嘩をしているのかじゃれているのかわからない二人に、アメリカが参戦した 。
楽しそうな3人に、日本も自然笑みを浮かべる。


確かに胸に巣くう痼りはあっても、時間がそれを癒す。
時間が哀しみを薄れさせる。
日本にだって、忘れられない傷がある。
未だ残る疵がある。
そっと右足に手をやりながら、日本はゆっくりと目を閉じた。

大丈夫。
私たちは、共に生きていける。







日本が引きずっていては駄目だ。
気分を切り替えるように、ぱちっと目を開けた日本は一つ頷いて話し合いの続 きをしようと座卓のペンを拾ったときだった。
アメリカの言葉が、いやに耳に響いた。







「そういえばフランスは僕と誕生日近かったな!フランスはどう祝って欲しい んだ!」
「……俺は美女を俺んちに放り込んでくれればそれでいいからさ、お前来るな よ?甘く爛れた時間を邪魔するな?」
「それじゃつまらないじゃないか!」
「俺の誕生日なんだから、俺の好きにやらせろよ、なぁ日本?」

フランスがにやけた顔で日本に話を振った。
日本はその言葉に曖昧な笑みを浮かべつつ、曖昧な言葉で一応の同意を示す。




「そうですね…、フランスさんがそれがいいとおっしゃるなら…、それをプレ ゼントするのが一番かもしれませんね?」
「日本つまらないぞ!それに何が言いたいのかわからないじゃないかっ!イギ リスはどうするんだ?」
「なんで俺がその変態祝わなきゃなんねーんだよ、面倒だろ」


日本の返答が不満だと、アメリカが今度はイギリスに話を振った。
ドクリと、日本の心臓が嫌な音を立てる。
背中を汗が伝う。



イギリスは本当に興味がないといわんばかりに、頬杖を突きながらフランスを 蹴飛ばした。
フランスが大仰に痛がっている。
謝罪と賠償を、何て日本が日常茶飯事で聞く台詞を口にしている。



アメリカがそんなフランスをおもしろがって。
日本はそれに便乗しようとしたが、それは失敗に終わる。







「駄目だぞイギリス!自分が祝って貰ったら、ちゃんとお返しするのが礼儀だ って君も昔僕に言ってたじゃないか!」
「……そうだな、」
「じゃあいくら仲が悪くたって、イギリスが祝って貰ったんだから祝わなきゃ 失礼だろ!イギリス、君はフランスに何をして貰ったんだい?」






日本は平常心を保とうとする。
自分が、自分たちが焦ってどうするというのだ。
その証拠にイギリスはなんの感慨も見せていない。
アメリカの言葉に大きくため息を吐いたかと思うと、静かに言葉を重ねる。






「なんもして貰ってねぇよ、だからする義理もないだろ」
「そうなのかいフランス!君は僕よりイギリスと長い付き合いのクセして、酷 いなぁ!」
「そうかそうかそれでいいからお前はいい加減黙れ耳元でうるせぇんだよさっ きからッ!!」
「そう言えばイギリス、君はいつが誕生日なんだい?昔から聞いた覚えがない ぞ!」




楽しそうに問うアメリカは無邪気な子どものようだった。
イギリスは、やはり変わらない様子で答える。





「ねぇよ」
「なんだい、それ?」
「だから、俺の誕生日はない。正しく言えばわからない、か」


アメリカが、尚もイギリスに問う。
それ以上聞いてどうすると言いたかったが、それを日本が言ってどうなるんだ ろう。
それに、喉が渇いて声は喉に張り付いてしまった。
こんなことを思うのは日本の(そしてフランスの)勝手で、アメリカを止める 権利も何もない。
それでも。






そんな言葉を、言わせないで欲しいと、思うのは。










「……俺が俺として意識したときから、森ん中ばっかいたからな。暦の意識が なかったんだ。だからわかんねぇ」
「そうか!君、結構馬鹿だな!!でもそれじゃあ君におめでとうがいえないか ら困るじゃないか!」







アメリカの明るい笑い声が部屋に響く。
フランスは、いい加減どけといいながらアメリカを頭上から振り払った。
アメリカはそんなフランスに文句を言いながらも、振り払われたついでにイギ リスの正面にと座る。

アメリカが相変わらずぱぁっと満面の笑みを浮かべるのに、日本はようやく握 っていた手の力を抜いた。






「じゃあ僕が、君の誕生日を決めても良いかい?」






御免だバァカ。

そんなイギリスの言葉が、耳に付いて離れなかった。


















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イギリスの建国記念日がない件について。
建国記念日だったり独立記念日だったりで、基本皆誕生日があるんですよね。
けどイギリスはないから、それはつまり誕生日がないってことでいいかなぁ… と妄想した次第です。
一応日本視点にて、あと二本ほどお話を書いて一応の完成。
アメリカ視点とフランス視点で。
フランスはパリ祭を誕生日と見なしております…。

イギリスは植民地多かったから、誕生日はいっぱい作ってますけどね。
あとドイツもないみたいですが、最近だと東西ドイツの統一が誕生日とみなし てもいいかも?
相当新しくなりますが…、イギリスが代わりになる日がないみたいなのでなし ということで!
ナショナルデーをもしかしたら誕生日にしてもいいかも、と思いましたが皆そ れぞれナショナルデーもあるもので…。

07/06/17





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