それはお前達が望んだことだろう









大切な物は置いてきた 4











フランスがあらん限りで俺を抱きしめている。
いや、肋骨が軋むくらいの力強さではもしかしたら俺を絞め殺そうとしているの かもしれない。


そんなことを考えていれば今度は酸素不足で頭がぼぅっとしてきた。
絞め殺すのではなくて、窒息死か。
フランスに深く口付けられて鼻でなんとか息をしようともそれすらフランスの顔 が近すぎてうまくいかない。


イギリスはそこでようやく抵抗しようとしたが、気づくのが遅くてすでに腕に力 は入らなかった。



こんな死因だけは御免だな。
そんなことを考えても動きようがなくてイギリスはかろうじて視線だけを動かし た。
フランスの背景。
雨が窓を叩いている。
止みそうもない雨に咲いたばかりの薔薇は平気だろうか。
いまなんだかもしかして死にそう、なのにこんなとりとめのない(イギリスにと っては大事なことだが)ことを考えると言うことはやはり死期が近いのかもしれ ない。
フランスの周りを金色と銀色が交差するように舞っていた。





「――…うわっ、なんだ…!?」
「それは……こっちの、……せり、ふ…、だ」

光が激しくフランスを責め立てて、フランスはイギリスから離れることになる。
体が解放されてイギリスはようやく酸素を得ることが出来た。
けれど急に大量の酸素を送り込まれても体はすぐに反応できない。
むしろ力が完全に抜けていたところで支えをなくし、イギリスは絨毯にと座り込 んだ。
思うように空気を求めることすら出来なくて、イギリスはフランスの言葉に弱々 しく反論するのみ。
そんなイギリスの様子に、フランスは慌てて手を貸そうとするがまた光が目の前 を飛び交った。
ちかちかと激しく光をまき散らすのに、フランスは目が眩む。



「って、いてッ!違うっ!!悪かったから、頼むからイギリスに触らせてくれっ !!」
「――……やらしいだろ。それ」
「だーッ!お前らのためだったんだぞこらっ」

イギリスは、フランスの言葉に僅かに目を見開く。
そして目を細めた。
見えている。
そのことになぜか目の奥が熱くなりながら、イギリスはそっと光に手を伸ばした 。


「ありがとう、助かった。大丈夫だ、こいつはただの変態で馬鹿で加減を知らな いだけだからな」
「―――…すげぇ言われよう」
「なら本気で殺す気だったのか?」

イギリスの手の上で光が舞っている。
先ほどのように激しい光ではなく、包み込むような月の光。
柔らかいそれに、イギリスが微笑むのにフランスは深くため息を吐いた。





そんな顔をして、よくもあんな台詞を言おうとしたものだ。






「俺がああしなきゃ、お前今頃死んでるだろ」
「なぜ?」
「アメリカが独立しただけであんな憔悴したくせに、そいつらが見えなくなった らお前死ぬだろ」

フランスの言葉にイギリスの緑の瞳がすぅっと鋭くなった。
その瞳に込められた確かな冷気に、フランスは眉を寄せる。
イギリスは手の中の光に口付けて、何事か囁いたかと思うとぱっと手を開いた。
光はくるくると舞いながら空気に溶け込んでいく。




「死ななかったが?」
「―――――…おまっ…!」

フランスはイギリスに詰め寄る。
首元を勢いよく掴めば、まだ力の入らないイギリスが扉に頭を打つ。
鈍い音がするのに、また光がフランスの前を飛び交った。



「ああ、いい。大丈夫だ。こいつもお前達がとても好きらしいからな」
「え……あ、?」
「お前もいい加減離せよ。……ったく、まだ力が入らないじゃねぇか」

ぶつぶつ言いながらイギリスはフランスの手を振り払った。
そのままぐいっと口を拭うのも忘れない。


「お前なぁ……」
「それはこっちの台詞だ…。もっと他にも塞ぐ手だてはあるだろうに」
「だってその方法が一番楽しいし。お前顔だけは可愛いし」

イギリスの視線が鋭くなった。
手が振り上げられるが、力の抜けた拳は難なくフランスの手に収まった。
そのまま手を引き寄せれば、イギリスの体はフランスの腕の中にと抱き寄せられ る。
すっぽりと胸の中に収まって、イギリスは慌てて離れようとするがフランスはそ れを許さなかった。



「――…離せよ」
「嫌だね」
「離せって、」

フランスはイギリスの頭を撫でながら、宙を仰いでため息を吐いた。
イギリスは聞こえる心音に安堵する自分に気づいて唇を噛み締める。






「―――…お前は此処にいるよ」
「そう言ってるだろ……」
「だからずっと、此処にいろ」






此処とは何処だ。
ぽんぽんと頭をなぜられながら、イギリスは問おうとしたが上げた顔はまたフラ ンスによって塞がれた。
何度か確かめるように口付けられて、そのままそれは深いものになっていく。






ああそうやってお前達は俺を切り離すんだ。
イギリスは生理的に浮かぶ涙をどうしようかと目を細めれば、フランスがそっと 目元を拭った。
そんな顔をするな。
どうして、そんな違う場所から俺を見る。



俺が持っている物をお前達が持っていないことを知っている。
けれど俺が持っていない物をお前達は持っているじゃないか。






俺だって大切なものを沢山置いてきた。
それを知っているくせに気づこうとしないのはお前達じゃないか。







色んな言葉が胸を渦巻いたがそれの一つも音にはならずフランスの咥内に消えて いった。













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出来上がっているようで出来上がっていない仏英にて締め。
皆それぞれ捨てられない物はあるし、イギリスは自分のために選んでいるだけな のにそれを特別視されているのが悔しい。
でも本当に生きにくいのは確かで、イギリスはそのことには気づいていない。

すれ違いにてそれぞれ皆をうらやましがってる話でした。
一番日本君の話がまとまっていましたね、やっぱり一気に書き上げないとだらけ てしまいます。反省。
頑張って精進いたします。

07/06/10

反転にて矢印メニュウ。





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