ゆく年くる年 「寒いな」 「寒いですね」 そんな言葉を交わすだけで、ぽっかりと白い雲が生まれる。 近年稀にみない程の寒冬に、けれど少し先を歩く男達は異様にテンションが高い。 どっちが先に神社までたどり着くかなんて言い合っていて、はぐれなければいいのだけれどと日本は小さくため息を吐いた。 はぐれたとしてもきっとすぐに見つかるのだろうことが、正直面倒だ。 またぽかりと寒空に雲が生まれる。 段々と薄くなって夜空に溶け込んでいくのを眺めていれば、どんどん距離が離れていく。 日本達が遅いのではない。 アメリカとフランスが早いのだ。 「……またぶつかった」 「ああ…、痛そうですね」 日本は隣を歩くイギリスと二人、再度ため息を吐く。 駆け足で人通りの多い道を歩くことはすでに犯罪だろう。 ただでさえ規格外サイズのアメリカは、普段からリアクションも大きくよく人にぶつかっている。 それが今日は大晦日。先ほどから除夜の鐘が響いているのが、日本たちの耳にも届いていた。 だからこそ急ぎたいのはわかるのだろうが、そもそも出発の時間帯が遅くなったのはアメリカのせいだ。 正月のための買い出しは確かに時間がかかるものだが、アメリカがいなければもっと早くに終わっていたことは間違いない。 アメリカがはしゃぐ度にイギリスが謝ってくるものだから、あまり何度も強く言うことが出来ず日本はその度に曖昧な笑みで返した。 クリスマスを全力で祝ったのに、よく余力が残っているものだ。 「……本当に、悪いな。日本の正月を味わいたい、って無理に付き合ってもらってるのにアメリカでのニューイヤー騒ぎと感覚が一緒なんだ」 「……まぁ、楽しんで貰えれば、何よりですよ」 多分それだけではあるまいと日本はわかっていたが、それをイギリスに伝えるのはなんとなく勿体ない気がした。 前を行くアメリカ達を見やるイギリスの視線は穏やかで。 今年の目まぐるしい世界情勢の変化に、流石のアメリカもひどく疲れていた。 そんなアメリカを誰よりも心配していたのはイギリスだ。 だから、行き過ぎとわかっていても元気な姿を見られるのが嬉しい。 窘めながらも元々アメリカには甘いイギリスだ。そしてそんなイギリスに甘いのは日本だ。 どうも随分と可愛らしいんですよねぇと、日本は隣のイギリスを盗み見て微かに笑った。 その優しい視線を無意識に分かっているからアメリカははしゃぐのだ。 悴んだ指先を擦り合わせるイギリスの手に日本は指を絡めた。 イギリスがきょとんと目を瞬かせているのに、日本はにっこりと笑う。 「寒いでしょう。人も多いですし、はぐれないように」 「……ありがとう」 ただ迷惑を被っているのは事実なので、アメリカに微かな意趣返し。 前を行く目立つ金髪二人組はまだ気づかない。 いくつ除夜の鐘は打ち終わっただろうか。 「あけましておめでとうございます」 イギリスの腕時計がかちりと音を立てて進んだのを見て取って、日本はそっとイギリスに告げた。 イギリスが、嬉しそうに笑う。 吐く息が白い。悴んだ指先は赤く、真っ赤な頬は寒さだけのものではない。 ああ、幸せだ。 胸に暖かいものが、じわりと広がった。 ----------------------------------------------------------- 冬コミ無料配布から。 寒い冬に穏やかな気持ちになれるものを目指して書きました。 島国コンビはめんこいです。 09/01/14 お雑煮ラプソディ 「……日本、確かに俺は雑煮が食べたいって言ったぞ!」 「ええ、だからこうして私は各種雑煮を用意したのですが何がご不満でしょうか」 「丸餅白味噌仕立てなのまでは許せる!でも、餡が中に入っているのなんて聞いたことがない!邪道だ!」 「今すぐ香川県の方に謝ってください」 蛍光色クリームのケーキを作る輩に邪道だなんて言われたくない。 日本は甘酒片手に力説するアメリカに絶対零度で笑いかけた。 「雑煮って美味しそうだな!」 そんなアメリカの言葉でなぜか日本の屋敷で雑煮を振る舞うことになった。 各国が集まり餅つき大会。 正直年々杵を持ち上げるのが辛くなっていのでそれは助かった。 けれどなぜこんな大々的になってしまったのか。 人をもてなすことは嫌いではないが、知らぬうちに宴の音頭を取られていたことが腹立たしい。 何も知らされてないのに、企画の当日に来られたってどうしろというのだ。(これはアメリカ以外の国は知らなかったらしく、丁重にあやまられた) 準備もろくにしてない屋敷に招き入れるのだけは嫌で、半日だけ猶予をもらった。 そしてイベント事に燃える性質の日本は、やるなら徹底的にというモットーでどうせならばと地方ごとのものを用意した。 大変ではあったがその選択は正しかった。 各国感嘆の息を漏らすのに、日本もようやく笑みを取り戻していた矢先だった。 アメリカが絡んできたのは。 「どうしてなんだい!お汁粉があるのに雑煮にも餡を入れる意味がわからないよ!?」 「餡が好きだからでしょう」 「しょっぱいと思って食べたものが甘いのはツラいじゃないか…!」 それは貴方の主観でしょう。 そう日本は言いたかったが、酔っぱらいに付ける薬はない。 多分、元々欧米では甘い豆を食べる習慣がないから特に拒絶反応を起こしたのだろう。 酔っぱらってテンションが高ければ尚更だ。 だからといって全否定されるのはやはり腹が立つのだが。 「日本、この角餅すましのやつ綺麗だし、うまいな」 「フランスさん、ありがとうございます。それは寒い地域のものですね、具だくさんで見た目も華やかなので一番受け入れてもらいやすいんです」 「餡入りのやつ、俺は結構好きだけどなぁ。味噌の白いやつと甘い餡が合うよ」 フランスの言葉に、日本は穏やかな笑みを取り戻した。 純粋に味を評価してくれるフランスは流石と言ったところだろうか。 苦笑しながら項垂れているアメリカを日本から引きはがし、上着を掛けてやる。 いつの間にかアメリカは眠っていた。 流石に青筋立つ日本に、フランスがぱたぱたと手を振った。 「甘える奴いねーから、今日はすげーな」 「……ああ、やっぱりそうなんですか」 「元々あの坊ちゃんが言ってたらしいぜ?雑煮って美味そうだって。作り方を習いに行こうか、と言ったのをものすげぇ馬鹿にしてたけど な。なんだかんだでコイツも大事にしてるからなぁ」 本人に言えばいいのにな。 そう言うフランスも、二人を随分と大切にしている。 そんな日本の呟きがわかったのか、フランスは口端をにやりと上げた。 「面白いもん。この二人見てると」 「まぁ、そう言うことにしておきましょうか」 「なんか含み有るなー」 笑うフランスに、日本も笑った。 イギリスは来て早々自国にとんぼ返りしてしまった。 上司の急な都合とはいえ、折角の新年にと日本ですら思うのだからアメリカの消沈っぷりは推して計るべしだろう。 でもやはり邪道発言は許しがたい。 「雑煮の作り方、お教えしましょうか」 「お、マジで?」 「アメリカさんにも、ちゃんと味を教えてあげてください」 立ちあがる日本に、フランスが続く。 障子を開けると雪が降っていた。 後ろではドイツがイタリアに説教をし、韓国が中国に無理難題を押しつけている。 来年もまたこんな風に馬鹿騒ぎが出来ればいい。 出来れば誰も欠けることなく。 「よ、お帰り。楽しかったか?」 「ああ…、アメリカが大騒ぎだったけどな」 「そりゃいつものことだろ?で、なにそれ」 「日本から貰ってきた。モチという食べ物だ、こっちはすまし汁…お前は甘いの平気だったな?」 ドイツが台所に立ってなにやら料理をはじめる。 それを後ろからじっと見やっていれば、不意に振り返った。 「……ただいま、プロイセン」 「うん、おかえりヴェスト」 さっきも言っただろとプロイセンが笑う。 来年もこうして過ごせればいい。 囲む食卓の温かさを分かち合えればいい。 ----------------------------------------------------------- 冬コミ無料配布からその2。 だだっ子メリカをなんだかんだで面倒見るおじいちゃん日本くん(笑) あん入り丸餅白味噌仕立ての雑煮が食べたくて仕方ないのは私です←。 09/01/14 BACK |
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