自分は結局どちらのものでもない。












アイデン ティティ心臓























「アーサー様、海賊共が不穏な動きを見せております。あまり屋敷から出 られぬようお願い申し上げます」




そんな言葉を言われたのがいつごろだったろうか。
イギリスは多くを聞くでもなく語るでもなく。
また、否も応も言うでなくその場を去った。



不穏なのはどちらであろうか。
イギリスは厳しい表情をしながら帰路を辿った。

言いたいことも言えず、言ったとしてもイギリスに決定権などない。
イギリスのことであっても決めることが出来るのは国民だ。
それは分かり切っている。

ただだからと言って全てが素直に頷けるわけでもなかった。



国民全体の総意なら当然にイギリスにも影響していく。
けれど国民の意見が割れているならば、話は別なのだ。




イギリスの上司は王朝の人間であり、イギリスも政治の中枢に深く関わる ことになる。
その政府が公式に認めた海軍――…確かにイギリスの誇る軍隊だ…――が 、イギリスが自分たちの側の存在だと思うのも無理はない。

国のために国民を代表し戦う彼らは、イギリスのためにその命を賭けてい る。
だからこそイギリスも彼らとより近しく存在する。
それはイギリスも認めるところだ。








けれど、違う。
こんなのは、違う。









「……なにが、不穏だ…?」

海賊は、話のわからぬ者達ではない。
中には確かに対話を出来ない輩もいるが、それが海賊全体と見てはいけな い。
イギリスが彼らの力を借り、かっての大国を追いやったことは最近のこと で。
海賊として名を馳せる者は、それにふさわしい実力を持っているのだ。


海賊から海軍となった男。
その男の姿を思い出し、イギリスは目を細める。





彼からする潮の匂い。
イギリスを愛した女性の手を取り大仰なまでの礼をする。




その姿を、イギリスは鮮明に覚えている。









「……忘れるな、」

彼らはイギリスに諾々と従ったわけではなく、取引をしただけのことだ。
彼らの中にも規律はある。

その規律を犯す愚行を、こちらがしてしまえば。
生まれるのは敵対心。

殺戮を許すわけではない。
無力な者に対する蹂躙を、許すわけではない。








けれど正義の名を元に、今まさにそれをしているのは果たしてどちらの方か。
年端もいかぬ少年をも殺すことが、彼らの正義であるのか。














弾圧に対して生まれるのは反発だということが。
なぜわからない。











「水面に、石は投じられた」

それは小さな変化かもしれない。
けれど蝶の羽ばたきが竜巻を巻き起こすように、波の一うねりが大渦となることもあるだろう。










そのとき彼らはどうするのだろうか。












「忘れるな……」

体がざわめく。
体を巡る血が、熱く駆けめぐっている。

ああ、海で、血が流れている。







イギリスは膝を付いて自身を襲う揺れに身を任せた。
支配下に置いてあれば、直接でなくともイギリスに影響は出る。
イギリスの一部として存在しているのだから当然であろう。
植民地を見て回るのも仕事の一環であるからして、植民地の乱れはイギリスに多かれ少なかれ影響する。


海に囲まれた島国であるイギリスは、大陸よりも海での出来事に影響を受 けやすい。
そうなのだと、思う。
そうでなければこの気持ち悪さに説明がいかない。

今や世界のトップに立とうとするイギリスが、大陸の他の国より弱いなん て事、あるはずがない。





聞けたらいいと、イギリスは密かに笑った。
島国。
きっとこの気持ちは、島国にしかわからない。
床に沈むイギリスを心配するかのように辺りを光が舞う。
イギリスがゆうるりと首を振って平気だと示せば、光は何度か瞬いたあと

静かに消えていった。

納得はしていないようだが、イギリスの気持ちを優先させたのだろう。
その気遣いに感謝をしつつ、イギリスは空を仰いだ。






窓枠に切り取られた空は、灰色だった。
そこから落ちる雨は窓にすでに滝を作っている。







叫びが聞こえる。
嘆きが聞こえる。








この雨は誰のものだ。
誰が流す、哀しみか。













「忘れる、な、」

血が流れている。












海軍であろうと海賊であろうと変わらない。
どちらもイギリスの民であるからして、イギリスの傷みは同じだというこ とを。



誰の上にも等しく雨は降るのだということを。
何のために戦うのかと言うことを。










イギリスは、雨音を聞きながら静かに意識を落としていった。

















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ええと、初めにとりあえずすいません…。
こないだようやく海賊映画を見に行ってきまして…。それでスペインとイ ギリスのと戦いのこととか思い出しまして。
ふと海賊VS海軍ってイギリスにとってはどうなんだろう…という暴走の結 果です。

だから根底に少しばかり海賊映画の設定が匂っているかもしれませんが気 のせいです。(ニコリ!)
でも本当に、イギリスは海賊のおかげで強くなった部分があるから正面切 って政府(海軍)側ではないんじゃないかなぁ…とか。
けど上司は王族なわけだし…。と、この辺を悩んでいます。
ドレーク関連が気になるのです…!
内紛とかって、本当に苦しいんだろなぁ…。

本当に書きたいのは次の話だったりしますが、次の話はアウトラインな気 がする…。

07/08/03





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