ここまで来るのにかかった時間はどれぐらいだったろう




睦ぎ言葉









「……眠ぃ…」

そう言ってかくんと首を落としたのは、隣国であり宿敵でもある見た目は まだ少年とも青年とも言える風貌の、けれどその中身は狡猾な老大国だ。
自分自身、何度煮え湯を飲まされてきたか分からない彼は、けれど今は無 防備にベッドに寝ころんでいる。

うとうとと瞼を閉じかけては猫のように手で擦る。
その様子に小さく吹き出せば、彼は不満そうに見上げてきた。



「……んだよ、」
「いや、眠ければ眠っても良いのにって思って」
「………喉、乾いた」

むすっとした顔で、シーツに埋もれながら睨め付けてくる。
まだ少し赤みの強い頬と、たっぷり濡れた瞳ではいつもの気迫は欠片もな い。
幸か不幸か、彼の不機嫌な顔だとか、殺意に満ちた顔だとか、そんなもの は見慣れてしまっているので本当にこれぐらいだと甘えているように可愛 くも見えてしまう。
顔立ちだけは本当に可愛いから、尚更だ。

テーブルサイドに水もグラスもあるけれど、彼が欲しいのはそれではない のだろう。
じっと見つめてくる、緑の瞳にまた少しだけ頬を緩ませて手を伸ばしてそ の髪をくしゃくしゃとかき回した。
柔らかな短い金糸は指の間をさらさらと零れていく。
時折小さな束になっていたり、固まりがあるのは致し方ないだろう。

少しだけ上る汗のにおいに、目を細めて立ち上がる。



「何が飲みたいんだ?」
「……アールグレイ」


下に落ちている上着を拾って羽織る。
掠れた声がこれまた小さく銘柄を口にするのを聞き逃さずに、頷いた。
部屋を出て行く前に振り返れば、彼は怠そうに腕を僅かに上げて振ってい た。
ただ顔は毛布に埋めたままで、振り返した手には気づいていないだろう。
それでも口元に穏やかな笑みを称えたまま、彼の所望に答えるべく部屋を 出て行った。











紅茶に関しては特別五月蠅い腕と口を持つ彼のために、時間をかけて入れ たのが悪かったのだろうか。
寝室に戻ってきたときには、彼は安らかな寝息を立てていた。
ふわふわと立ち上る湯気に視界が霞みつつ、テーブルサイドの酒瓶を片付 けてそこに紅茶を置いた。

彼を起こさないようベッドに腰掛けつつ、自ら淹れてきた紅茶を口にする 。
流石に紅茶に関してだけは彼の方が軍配があがるが、自分だって人並み以 上の腕は持っている。
香り高い紅茶に満足したのに、視線を移したところでその満足感は霧散し てしまった。

もう一口、紅茶を口にしてからカップを置いて手を伸ばす。





「お前、まだ何が不満だよー?」
「……………」

つん、とその頬を指で突けば彼はむずがるように眉を寄せる。
余計にその格好を小さく丸くする様子に、ふっと息を吐いた。




膝を抱えて、丸まるように眠る。
自分を守るように、自らの心音を聞きながら眠るその格好。 心理的に愛情が不足しているからだと言うが、こと彼に関してはあながち嘘とも思えない。

それでも。
こうして隣で穏やかに眠るようになってもまだ足りないのだろうか。
そう考えると、なんだか少し寂しくなる。



出会いだって平和なわけではなくて、一度作った深い溝は決して埋められ ることなく歪んでいった。
お互いを憎み合い、本気で殺そうと思ったことは何度だろう。
顔を合わせるだけで悪しく罵り合うのが当たり前だった時期もある。

今は、落ち着いた。
喧嘩をしなくなったわけではないが、その種類も程度も違う。
これが年を取ったと言うことなのだろうか。
無論何かあればすぐにでも銃を向けることは厭わないけれど、この時間を壊したいとも思わない。





「なぁイギリス。お前はどれだけ欲しいんだ?」

そっと顔を近づけて耳に囁く。
ふと鼻を擽ったのが自分の匂いなことに、口元が勝手に笑みを作った。






イギリスの寝息に口付けて。
起きたらまた紅茶を淹れ直そうとイギリスの体を抱き寄せた。















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ヘタリアThe本の本家カウントダウンに萌えて突発小説です。
本編とは全く関係ない更新ですが…!
カウントダウン当日の仏英ボイスに悶えすぎました。
事後っぽいなーというか、前かなーとかつらつらと考えた結果今回は事後 です。(きぱり)
あんなに気の抜けた口調のイギリスは本当に貴重だと思うよ!
愚痴でも絡むだけでもなく甘えてるっぽい雰囲気に萌えました…。

本当に可愛い…。聞く度死ねる…。

08/03/39





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