お前に贈るは全て呪いの言葉。








フランスの娘












『神の言葉を聞いた』

それだけでフランス軍を率いてしまった農場の娘、ジャンヌ・ダルク。
たかが片田舎の小娘は、けれどそのとき確かにイギリスの脅威だった。


人を殺すことに怯え、戦場で泣き崩れる少女。
よくぞここまで生き残ったものだとー…、確かな功績を残した彼女に思う。

フランスのためといって戦った。
そして成し遂げた。




成し遂げたが、彼女は盲目だった。
彼女の思う、フランスのためには王の戴冠だけでは足りなかった。




フランスのためと言いながら。
雁字搦めになっていく彼女にフランスがどれだけ憔悴していたか彼女は知らない だろう。
孤立していく彼女にフランスは何も出来ない。
フランスは彼女の神ではない。








牢獄に繋がれた一人の少女を格子の隙間から見やりながらイギリスは、細く長く 息を吐いた。
薄汚れた布。
くすんだ金髪。
細い手足はあちこち傷があり血が滲んでいる。


これがイギリスを窮地に追いやった少女。
イギリスの目標を破った少女。
フランスを震わせた、オルレアンの乙女。





イギリスは小さく笑うと石畳をブーツでことさら強く踏みしめた。
カツン、と音がするのにゆるゆると少女が顔を上げる。
ボロボロであるはずなのに、目だけは強い光をまだ備えていた。
そのことにイギリスは内心で感嘆すると、次には皮肉げに顔を歪ませて少女に声 をかける。






「無様な物だなジャンヌ・ダルク。自分の器を間違えるからこういう事になる」
「……私は神の言葉を信じただけだ」
「なぜ神はお前を選んだ?たかが農場の小娘を選ぶ理由が何処にある」
「それでも私は、私がやれるだけのことをやった。それだけだ」



イギリスの言葉に、ジャンヌは僅かに瞳を震わせた。
けれどそれだけで彼女の声は落ち着いた物だった。
この状況で、これだけの様子を見せるのは見事な物。

オルレアンの兵隊たちを始終鼓舞し、士気を挙げただけのことはあるということ か。
イギリスはすっと目を細めながら言葉を続けた。





「その結果、こちらに引き渡されてしまったわけだがー…、それも神の思し召し だと?」
「神の考えは私などに想像が付かないほど深い」
「フランスのために戦い、お前が憎むイギリス軍の手にかかり処刑されることも 、神の深い考えだということか」
「………何が言いたい?」




イギリスの殊更馬鹿にしたような口調に、ジャンヌが少しだけ眉を動かした。
そうでなければ面白くない。
イギリスは口端を上げながら、ジャンヌに宣告をする。




「お前は神の元になどいけやしない。復活のために残す身体など誰が用意する物 か。お前は火刑に処されるんだジャンヌ・ダルク。神に従順だった娘に、神はた だ死んでいけと言っているんだ、復活の約束など何もなしにな。大層な神様なこ とだ」
「……ッ!神を侮辱するな!私の神を、お前ごときが語るな!!神は絶対にイギ リスを許さない、イギリスには天罰が下る!神は私にこれ以上憎しみの心を抱か ぬように、私にそれを見せないだけだ!!」
「俺に天罰が下る様を見ればお前の心は解放されるだろうに、不思議な神だな」



あははははと声を上げて笑うイギリスを、ジャンヌが強く睨み付ける。
その瞳にぎらぎらした光が混じるのに、イギリスは余計に笑いが込み上げる。
素直で、純真な少女。



だからこそ、こちらの思うままに嵌ってくれる。






「ッ貴様……!貴様など、イギリスと共に死んでいく運命だ!」
「それはそうだろう」





ジャラ、と重苦しい音が独房に響いた。
蹲っていたジャンヌが勢いのままに立ち上がっている。
下から睨み付けていたジャンヌと、イギリスの視線が平行になった。
ジャンヌは正面から己を否定する男と初めて向き合うことになる。



何処までも深く静かな緑色の瞳。
ジャンヌが過ごした森と同じ色。
けれどその瞳はジャンヌにもたらす物は安らぎなどではなく、激しいの負の気配 だった。
思わず息を飲むジャンヌに、男はそれは嬉しそうににっこりと笑った。







「俺がイギリス自身なのだからな」







ジャンヌが弾かれたように地を蹴った。
けれど途中で無骨な鎖は伸びきり、ジャンヌは足を取られて床に倒れ込む。
イギリスはその様を静かに見守っていたかと思うと、不意に高らかに笑い出した 。
滑稽なまでに笑う男を、ジャンヌは絶望と憎悪の入り交じった目で見ている。
イギリスはひとしきり笑って、ひたりとジャンヌを見据えた。




「お前の神はいまお前の目の前にいる俺に雷を落とすことも出来ない」





ジャンヌが目を見開くのに、イギリスは目を細めた。
そして格子からするりと手を外すと、何事もなかったかのようにその場を後にす る。
乱れることなく綺麗に足を進めるイギリスが、角を曲がるときに背後から絶叫が 聞こえた。
嘆きか苦しみか怒りか。
それともその全てなのか。
イギリスにとってすでに興味を失った少女の声がブーヴルイユ城に響くが、イギ リスは気にすることもなく去っていった。















「聖少女、とはよくいったものだ」

くく、っと低く笑ってイギリスはフランスを見やる。
ジャンヌダルクは処刑された。
フランスは哀しみに打ち拉がれている。

その様子は決してイギリスにとって嬉しい物ではない。
自分がもたらしたこととはいえ、望んでいたことではない。




どうだ、お前はどう思う。
お前が見ているフランスは、俺はとっくに見ていた。
お前が孤立し始めたときから見ていた、フランスの姿だ。





イギリスはフランスではなく、フランスより少し上の空を見ている。
こちらを睨み付ける少女。
けれどすでにイギリスに何もすることが出来ないだろう。






「この世に未練が残りすぎたなジャンヌダルク」


互いに気づくことのない、フランスとフランスの娘を横目にイギリスは薄く笑っ てその場を静かに去った。











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うちのイギリス、ジャンヌがめさめさ嫌いなようです。(言うことはそれだけか)
で、フランスが好きすぎる。

07/06/03





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