「ハッピーインディペンデンスデー!今日という誇りと、今後の繁栄を祈って!!」


そんな言葉で始まったパーティには、各国と各国代表が集まっている。
時間や状況の都合もあって、パーティの出席者の大半はアメリカの国民であるがその中に混ざって見知った顔があるのにアメリカは手を振った。
隣でスピーチ中の上司が肘でアメリカをつついてくるが、そんなことを気にするアメリカではない。


アメリカと同じく楽しそうに手を振り返すイタリアに、そんなイタリアを窘めるドイツ。
その横で控えめに手を振っているのは日本だ。




アメリカはまだ続く上司の言葉を聞き流しながら、尚も会場を見渡す。
ロシアが笑顔でこちらを見やっている。
リトアニアがその傍で笑っているのか泣いているのかどっちつかずな表情をしているが、彼も来てくれたのが嬉しくてアメリカは壇上から身を乗り出した。

それには流石にセキュリティポリスがアメリカを押し戻し、不承不承としていればぱちっと額に何かがあたる。
重力に従って落ちてくるのを受け止めれば(こういうのを止めてこそのセキュリティポリスではないのだろうか)、それは小さな輪ゴムだった。
飛んできた方向に顔を上げれば、フランスがによによと笑っている。




「フランスっ!酷いじゃないか!!」
「―――…アメリカ、私の話を止める、お前が酷い」

アメリカが投げ返した輪ゴムは小さく弧を描いてぽとりと落ちた。
思わず、といった風にアメリカが叫べば上司がマイクで寂しそうに言葉を落とす。


は、とアメリカが我に返ったのも遅く。
会場は静まりかえったかと思うとわっと湧き上がる。
アメリカがあはははと照れながら手を振れば、後頭部をぱしっと上司に叩かれた。




「痛いぞ!」
「痛いものか、あと少しだから静かにしててくれ……」

アメリカが非難がましく訴えれば、上司は肩を落としてアメリカを後方に

追いやった。
僅かに踏鞴を踏むアメリカは、もう一度痛いよ、と呟いて会場を見わたす。



「―――…痛い、なぁ」
いないなぁ。



これだけ人がいれば、埋もれてしまうのも当然で見つからないのも仕方ないだろう。
彼はけっして大きい方ではない。
華奢とも言わないが、この会場内ではいたとしても確実に埋もれている。

スペインとロマーノが小さな諍いをしているのを見つけて、アメリカはため息を吐く。
諍い。
それすら出来ないのが、ひどく。






「まぁ、そもそも――…」



来ていないだろう。

ただでさえいま彼の国は大変なはずだ。
アメリカの元にもニュースはひきりなしに入ってくるし、今年はその姿が見られずとも期待も其処までしていない。



むしろ、いないのが当然だ。



そこでまたアメリカはため息を吐いて、ばしっと両手で頬を挟む。
この祝いの場で自分がため息なんて、なんてナンセンス。
こんなにも沢山の人が祝ってくれて、笑ってくれているのに。




アメリカは頷いて、俯きがちだった顔を上げる。
楽しそうに言葉を交わしている国民達の顔を見て、アメリカにも自然笑みが浮かんだ。

この日は、特別な日なのだから。





そろそろ上司のスピーチも佳境であり、アメリカには乾杯の杯が手渡された。
会場をみても皆に杯が渡されている。
黄金色のシャンパン。
フランスが祝いにとくれたもので、掲げるだけでもその芳醇な香りが鼻を擽った。


素直に飲むのが楽しみで、早く演説が終わらないかと待っていれば会場の片隅で無粋な音。
韓国が慌てているのを見ると、きっとグラスを割ってしまったのだろう。
細身に見えて彼は鍛えているし、その上賑やかだ。(悪く言えば騒がしい、だ)
広いとはいえ、それなりに混雑している会場でグラスの一つや二つ割ったとしても不思議ではない。
一生懸命片付けようとするのを、中国が傍らでウェイターを呼ぶ。
任せておけば大丈夫だろう。


そこで上司に視線を切り替えようと、動かしたときだった。
確かに視界に過ぎった金髪。
中国と何事か話したかと思うとそのまま出口へとソレが向かうのに、アメリカは壇上を飛び出した。




上司の演説が終わるのと。
アメリカの持っていたグラスが割れるのと。



ドアの向こうにイギリスの背中が消えるのは、同時だった。
















「―――…っイギリス!!」
「主役が抜けていいのかよ?」

会場内とは違い、廊下は閑散としている。
分厚いドアの向こうでは、騒ぎが起こっているのか上司が上手く収めて乾杯が行われたのか。(おそらく後者だろう)

しん、とした静けさの中その名を呼べば彼はあっさりと振り返った。
本当に当然のように彼が振り返って、アメリカは自分が安心したことに気づく。


イギリスが足を止めたのに、アメリカの足も止まってしまってその距離は縮まらない。




「戻れよ。お前の日、だろ」
「一緒に戻るんじゃなきゃ嫌だ。折角来てくれたのにもう帰るのか?そんなの、」
そんなの、酷いじゃないか。



アメリカの言葉に、イギリスは深く眉間に皺を刻んだ。
次のイギリスの言葉が容易に思い浮かんで、アメリカも表情を歪める。


そんなのお前の勝手だ、とか勝手に独立したのはお前だろとか。
わざわざ来てやっただけでもありがたく思え。
別に俺にとってこの日はめでたくも何ともないんだからな。
立場上の付き合いだわかってんのかバァーカ。




「―――じゃ、ないか……」

結局何十年何百年経っても、イギリスはアメリカを認めない。
何のために独立したのか、わからなくなってしまう。

姿が見られなかった今までより、姿が見られた今の方が、一層悔しかった。



せめて一言ぐらい。
欲しいと思って、何が悪いのだろう。






「――…お前、馬鹿だろ……」

そうだよ。
君だっていつも言ってるじゃないか、俺のことバカだバカだって。
そうだよ馬鹿だよ。
何時だって何よりも欲しい物が手に入らない。


君の庇護ではなく、君への庇護。
対等を求め君に銃を向けた。

君を傷つけて選んだ独立は、俺が持っていた物すらなくしてしまって。




この手から零れ落ちる物は止められずに。
新たに受け止めることすら出来やしない。





「ったく…、なにが一人前なんだよ…」

欲しいのは。
沢山のおめでとうでも賛辞でもなくて。
皆から祝ってもらえるのは嬉しいけれど。
一番欲しいのは。



ただ君からの。






「誕生日に泣く奴があるかよ……」
「――…イギリス小さいんだから、無理しなくて良いぞ」
「お前大人なんだから、無理しろよ」

苦し紛れの悪態は、さらりと悪態で返された。
ぽんぽんと頭を撫でる手の感覚は昔と変わらずに。
テキサスに雨がふるのも構わずに僕はその手を享受する。


ああ、だから、まだ君は。








「―――…いっぱしにもてなし出来るようになってから、呼べバァーカ」



イギリスが、時計に視線をやってああ時間だ、と呟いた。
何事もなかったように去っていくのに慌てて手を掴む。





「待ってよイギリス…!」
「いい加減戻れよ。俺は他にやることあんだよ、てめぇホストだろ。っていうかてめぇの誕生日にてめぇでホストやってること自体間違ってるし……」


ぶつぶつと文句を言うイギリスが、ポケットからなにやら取り出した。
やはり何事か口にしながらイギリスはアメリカの手を取り、それを巻き付けた。
いや、結びつけた。




「やる。ありがたく思えよ」
「――――…なにこれ」
「カシミア製のリボンだ、いい品なんだからな」




左手首に巻き付けられた、重厚な真紅色のリボン。
確かに触り心地は良く高級な品だろうことは窺い知れるが、なぜリボンなのか。

ぽかんとするアメリカを背に、イギリスは歩き出す。
その歩みに迷いはなく、アメリカが呆気にとられている間にイギリスの姿は見えなくなった。




「リボン……って、せめて、あれじゃないのか…?」




イギリス自身に結んでプレゼント。
ぐらい言えばいいのに。
いや、むしろその気だったのだろうか。

イギリスが聞けば憤死するだろう事を考えながらアメリカはリボンを眺める。


綺麗に結ばれたリボン。
ゆら、とどこからともなく流れる風にゆられるリボンにそっと口付けて、アメリカは笑った。








「――…今度は俺が、イギリスにリボンを結んでやるんだからな」

結局イギリスの言動だけで、テキサスは晴れをもぎ取った。
ははっと高々に笑うアメリカを、日本達が迎えに来る。






「アメリカさん、嬉しそうですね?」
「ああ、プレゼント、ようやくもらえたんだ」







やはり今日は記念すべき日だと。
アメリカは満面の笑みを浮かべていた。














アナクロレター

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ようやくまともなメリカ祝いー!
少しは米英らしいですかね、甘いですかね!!
と思いつつ、多くは語るまい(爆)
色々こじつけまくっておりますよ…orz。
リボンは本当は他の誰かにあげる予定だったんですよだから持っていたんですよ。
けど泣いてるメリカには勝てなかったんですよというような。(どういう )

本家さまのふたりが本当に可愛かった…。
嬉しそうにプレゼント開けるメリカが嬉しかったよ!


07/07/10






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