オフライン仕様なので少々読みにくいですがご容赦下さいませ。







アーサー・カークランドは通っている学園の生徒会長をしている。母国は英国だが通う高校は東の島国、日本にある高等学校のひとつだ。
留学生の多さを誇る国際的な高校は、確かに半数以上の生徒が留学生で埋まっており高校ながらに公用語が英語と日本語の並列となっている。
その上外国語のカリキュラムはおそらく全国の高校と比べても一二を争う豊富さだろう。選択制ながらも生徒の自主性によって何カ国語も掛け持ちで授業を受けることは可能であるし、またその生徒達によって組まれる授業も多い。
日本ではアメリカ英語が学ぶ主流の所だがイギリス英語――いわゆるクイーンズイングリッシュとアメリカ英語の選択も出来るところには素直に驚いた。アーサーは出身が英国故に度々クイーンズイングリッシュに関しては講師として参加している。
そんな中で友人である本田菊はアーサーにと英語を師事しているのだが、正直言って出来の良い生徒ではない。
他の教科は全てトップクラスでそつなく何事もこなす割に、英語に関してはなぜあんなにも落第すれすれなのか嫌みでも皮肉でもなく教えて欲しいくらいだ。
アーサーは友人用の追試テキストを作成しながら息をつく。
きっと菊もこのテキストを前に同じようにため息をつくのだろうと思うと、少しだけ愉快な気持ちになって心持ち口の端をあげた。
どうしたらそんなに他の言葉が話せるようになるんですか。他の国の言葉が話せればもっと楽しいと思うんです。
菊の心底羨ましそうな言葉に、けれどアーサーは上手い答えが見つからなかった。
彼の言葉は正しいと同時に間違いでもある。アーサーは母国語の英語は勿論、日本語をこの国の学校へ通うと決めてから学び始めてそれなりに話せるようになったし他の国の言葉も――…母国語と同じように話せる言葉があるけれどあまりそれを使いたいとは思えない。
むしろ口にしたくないくらいだ。
アーサーはペンを止めると意識を切り替えるため紅茶にと手を伸ばす。
生徒会室には生徒会メンバーがもってきたものが色々と置かれているが、この紅茶もアーサーが自分で購入した物を備え付けている紅茶だ。
面倒な仕事を一手に引き受けているのだからこれぐらいの息抜きは大目に見て貰わないと割に合わないだろう。誰に言い訳するでもなくアーサーは少しだけぬるくなった紅茶に口を付けて一息ついた。
普通の教室よりは勿論狭いが、それでもそれなりの広さはあり明かり取りの窓が大きく取られ庭に面した生徒会室がアーサーは気に入っている。
入学式はとうに過ぎ、大きな行事も近くないとあって生徒会室には今アーサーが一人だけだった。
机が広く作業しやすいことからアーサーは生徒会室に籠もることが多い。寮も生徒会長特権で一人部屋を与えられているが、庭の風景を見やるのが好きでアーサーはテスト勉強もここでするのが常だった。
そろそろ薔薇の最盛期を迎える。梅雨頃から咲き始めた花は日に日にその芳香を増し、色鮮やかに咲いている。
アーサーは後ろを振り返って庭を見やりながら自然笑みを浮かべた。
テキストを作り終わったら提出がてら庭の手入れをするのもいい。
期末テストが程なく始まるが、普段から真面目に取り組んでいればまず問題はない。ただ勉強を教わりに訪れる生徒が多少なりとも増えるため、普段通りの生活は出来ないなとアーサーは壁に掛けられいるカレンダーを見やってひとり頷いた。
教えることは復習になるから別段面倒でもないのだが、ひとりの時間を過ごすのに慣れているアーサーにとっては人の多い生徒会室はテスト前の特別な風景と言っていい。
普段は生徒会メンバー以外が近寄る生徒会室ではないが、あと三日もすれば勉強部屋になるのだろう。生徒会メンバーも面倒見の良い人物が多いから、きっとアーサーと同じく教えるのに従事するに違いない。書記のリトアニアなぞ、人の面倒ばかり見て自分の苦手科目に手を付けるのが前日深夜、だ。
アーサーは中間テストの風景を思い浮かべて静かに笑う。


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「――――…っ、お前らが、ちゃんとブリタニアに優しくしてやれば…、あいつ、あんなに泣かなくても済むのにっ…」

少年が、その瞳から大粒の涙をぼろぼろと零していた。
アーサーもいきなり彼が泣くなどと思っていなかったから、思わず狼狽してしまう。子供が泣いているのはよろしくない。非常に、よろしくない。
どこか鬼気迫った感じにアーサーにいきなり怒鳴りつけてきたことを考えると、彼はその『ブリタニア』のことが大切で仕方ないのだろう。
『ブリタニア』とその兄貴とやらは仲が良くないらしい。
それに気付いてしまっては、アーサーはそれ以上この少年に対し怒鳴る気持など到底起きなかった。
深くため息をつきながらも、己の横に少年を下ろしてやりハンカチをその目元にと差し出した。
けれど少年はハンカチを受け取ろうとはせずに、ぎゅっと膝の上で強く拳を握りしめている。
アーサーはがしがしと髪の毛をかき回しながらも、目元をなるべく丁寧な手つきで拭ってやった。
「男がそう簡単に泣くなよ、みっともない」
「―――…るせぇっ、」
「お前にそんな口調は似合ってないぞ」
髪の毛を撫でつけるようにして手を乗せれば以外にも彼はアーサーの手を振り払いはしなかった。きっと泣くのを堪えるのに必死なのだろう。
目には零れんばかりの涙が広がっており、けれど嫌いな『ブリタニアの兄貴』の前でこれ以上みっともない姿を見せるものかと堪えている。
アーサーはまずは誤解を解かねばなるまいと思うが、うまく説明できる自信がなかった。
違うとだけ伝えれば早いが、それだけではこの少年を突き放してしまうことになる。それは嫌だと、アーサーは腐れ縁の男に似た少年を見やりながら言葉を考える。
着ている服は上質なものなのだろうが、どうにも時代がかった服に思えてならない。
それでも少年が着ていることに違和感はなく、どこからやってきたのだろうと辺りを見渡すが両親らしき人は見当たらない。
こういうとき、フランシスであればと思いたくないが思う。
あの言葉をよく知っている男は流れるように少年を安心させる言葉を連ねさせるのだろう。自分はと言えばいつも伝えたいことの半分もうまく言葉に出来ず、どうしたらあんなに感情豊かに己の気持ちを言葉に変換することが出来るのか。
さわさわと風が木々を揺らすのに目を細めながらアーサーは、まずは少年の名前を聞くところからだとひとり小さく頷いた。
「―――…なぁ、」
「俺じゃ、もう駄目なんだ」
アーサーが呼びかけようとした時だった。
少年がぽつりと言葉を落とす。
その響きの深く、寂しい音にアーサーは言葉を失う。
そんなアーサーに気付いてか、気付かないでかけれど少年は一点を見つめながら掠れた声で言葉を続けた。
まだこんなに幼いのに、どうしてそんなにも疲れきった声で、嘆くのか。
アーサーは少年の纏う雰囲気が、けっしてその年頃では持ちえない大人びた雰囲気なことに気付いた。。
「俺の言葉はもうブリタニアには届かない。もう二度と誰のことも信じないかもしれない。俺、俺はあいつの傍にいてやるって言ったのに、それなのにもう、あいつは俺のことを二度と信じない…!」
少年の告白に、堪え切れずにその目から涙が零れ落ちる。
ぽろぽろと零れる涙を拭うこともせずに、少年は必死に拳を握って叫びだしたいのを懸命に耐えているようだった。


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結局のところ残りの旅行の日程で、少年に会うことはなかった。
そうだろうと思いながらもどこか後ろ髪引かれる思いでフランクフルトの空港にとアーサーは佇んでいた。
半日の時間を使って、ドイツのベルリンにと赴いていた友人がこっそりと戻ってきたと思ったら怪しげな上着を抱きしめていて、その上朝は確かに着ていた学校指定の上着が消えている。
何事かあったのかとアーサーが思うぐらいなのだから、彼の親友であるフランシスとアントーニョが黙っているわけもない。
朝は引き受けた二人組だが、当人が戻ってくれば相手はまかせたとばかりに押し付ける。
どこか助けを求めるような視線が向けられたが十分にそれは果たしたであろう。
それに、困りながらも満たされたような彼に心配するようなことはない。
アーサーは自分の言葉が少しでも彼の何かになったのならいいと、騒がしい三人組を振り返る。
途端、目が合ったのはフランシスだった。
この旅行中、彼と行動したことはないがそれでも何かと視線が合わさったのは互いに思うところがあるからだろうか。
アーサーはけれどその視線から逃げるようにしてその場を去る。
搭乗時間まではまだ大分時間があるから、特に誰も探しに来ることはないだろう。
最後の買い物とばかりに菊たちなどは空港のショップに走っていることだし、少しぐらい監督の役目を放棄したって悪くはあるまい。
アーサーはそう自分に言い聞かせながらトイレにとその足を向けた。
変な汗をかいたせいで手が気持ち悪い。
蛇口の下に手を差し出せば、冷たい水が流れて行って不快な気持が少しだけ払拭された。
思ったより空港は熱く、ぼぅっとしていたらしい。
目を閉じて暫く水の冷たさを堪能しているうちに、誰か入ってきていたことに気付かなかった。
気付いたのは、いきなり後ろから抱きしめられてからだった。

「あ――…よかった。会えたな――…」
「―――っ!…っ?―――っ!!?」

驚きが過ぎると、声も出ないらしい。
アーサーはぱくぱくと口から空気だけを吐き出して、反射的に濡れたままの腕を後ろに降りあげた。
変質者に容赦はいらない――。
そう、思って力の限り腕を動かしたのに、それは綺麗に変質者の腕に収まってしまった。
力強く握られる手首。
上げられた顔が鏡越しに確認できて、アーサーは再度息を飲むことになる。

「―――…っフランシス!?」
「おーご名答。そ、今おにーさんは『フランシス』なの」

腕をフランシスから外そうとして、けれどそれは叶わず彼と向き直るだけになった。
後ろにはトイレの壁がある。
綺麗に磨かれたタイルに背中をつけることは厭うようなことではないが、目の前にいるフランシスは問題だった。
フランシスではない。
アーサーの良く知るフランシスは、確かに己よりも身長は高いがここまでがっしりとした大人の体つきはしていなかったはずだ。
細身に見えて、開けた胸元から見える体は筋肉で覆われている。
髭も生やしていなかったしなにより。
―――…纏っている空気が絶対に、違う。
どこか疲れたようなその人の称える笑みは穏やかだが気を抜くと飲み込まれそうな雰囲気があった。
フランシスにこんな雰囲気はない。
アーサーが見知らぬ人物に警戒心丸だしで睨みつければ、『フランシス』はどこか泣きそうに、笑った。
「覚えて、ないかなぁ…」


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若干こちらはCP色があるかもしれませんのでお気を付け下さい。
(一応CPなしですが見ようによってはそうとれるかもしれません。悪いのはフランス兄ちゃんです←)








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