開けた瞬間飛び込んできたのはICUへと駆けて行く同僚の足音と 運ばれてきた患者の状態等を伝える掛け声だ。

 たった今一人処置したはずにも関わらず、再びお客を迎え入れたICUに ごく自然と桐生の爪先もそちらへ向きを向ける。

だが、その肩に手を置き引き止める者がいた。

今は急いでいると言い掛けた言葉が肩に手を置いた人物を 視界に止めて寸でのところで飲み込まれる。

変わりに出てきたのはその人の名。

 「・・・リョウ・・・・。」

「義兄さん。そんな状態で患者に接せられると思っているの?
まぁ、メスの握れない僕が言うのも何だけど。」

最後の言葉に桐生の顔から一層血の気が引く。

「とにかくもう、他の医師が向かったから義兄さんは休みなよ。さぁ。」

 そう言って桐生の腕を取り、ICUとは反対の方向へ引っ張ってその場から連れ去ろうとする。

義弟の鳴海に半ば引き摺られるようにして、それでも他の医師が
向かったとい言葉を聞いた所為もあるが大人しく鳴海の後を付いて
休憩室へと戻るとソファーを前にして崩れるように座り込んでしまう。

 他に人もおらず気心の知れた鳴海だけだったという事も座り込むという
行動の一因ではあったかも知れないが体調が優れないのは疑い様も無い有様であった。

 「それって僕の所為かな?もしかして。」
 
唐突に頭上から浴びせられた言葉に桐生の思考が追いついて
いかず目を白黒させて鳴海を窺う。

「緊急手術一件如きで、義兄さんがそんな体調悪くする訳無いだろっ!
明らかにおかしいんだよっ!」

桐生の様子に苛立った鳴海が壁を強く拳で叩きつけながら絶叫する。

「リョウ!・・それは、誤解だ・・・。」







「奏香曲」
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