たまひよ〜はじめてのおつかい。
ランチを巡る騒動Ver2







「あ、あいつらあれだけ言ったのにっ!」

慌ただしくチルドレンを送り出してから数分後。
皆本が叫び声をあげるのに、賢木は見ていたニュースを中断して家主の元まで足を運ぶ。

昨日は急に深夜に任務があり、今日は休みでも構わないと言う皆本だったがチルドレン達は学校に行きたがった。
良い傾向ではあるが、起きられるかどうかはまた別で。
皆本もギリギリまで寝かせていたが、その際の注意事項をチルドレンは聞き流してしまった。

『今日は給食がなくてお弁当の日だって連絡あっただろ。三人分、ちゃんと作ってあるから忘れずに持って行けよ』

皆本もチルドレンと同じように深夜勤務だったというのに、マメなことに三人分少しずつ違うお弁当になっている。
一緒に暮らしていることをクラスメート達は知らないわけだから、確かに全く同じという訳にはいかないのだろうがそれでも皆本には頭が下がる。


「どうした皆本」
「あいつら、今日は給食ないのに弁当持って行き忘れたんだ。今日は大事な定例報告がある日だし僕も時間がないんだが…」
「……局長に頼めば、時間遅らせてくれるんじゃねぇ?」
「それは出来ないよ。他の人の都合だってあるんだし」


皆本は賢木を見下ろしながら頭を抱えた。
普通なら見上げることのない賢木は、成長途中の腕を伸ばして皆本に触れる。







賢木は現在チルドレン達と同い年になっている。
正確に言えばチルドレン達より一つ下だ。
ESP検査に引っかかり、能力が発覚した年だったと賢木は記憶している。

生体コントロールをあやまり、どういう加減かわからないが気づけば十歳児と化していた。
確か傷を塞ごうとしていたのだと思う。
救助を待つ余裕はなく、傷ついた細胞を傷つく前の細胞にすればなんとかなるのではないかと脳裏に掠めた考えをそのまま実行した。
賢木の能力は生体に関するサイコキネシスだから、賢木の血に濡れた鉛を血液ごと体外に移動させそのまま修復作業を朦朧とした意識で行った。
結果は上々。
しかし半分意識がない状態での能力発動は無茶があったようで、なぜか細胞は若返った上にその個数まで減っていた。
確かに賢木は、弾丸を除去し細胞を元の状態にしようとしていたけれど。

この年から複合能力は持っているが、流石に以前の賢木よりも不安定さは増している。
管理官に頼ることも考えたが、賢木の能力に逆らうように別の能力を重ねることは危険性が高かった。

バベルの出した結論は時間の流れに任せようだった。
中身は大人のままの賢木であるのだし、確かに結果を急ぐよりも慎重に事を運んだ方が良いだろう。
感覚は解っているのだから、訓練次第で今の賢木が以前の賢木のように生体コントロールも出来るようになる。

賢木はその結論に異を唱えることもなく、従った。
少し勤務内容が変わるが仕方がない。
とにかく突然のことで流石に疲れた賢木は早々に帰宅を願い出た。
日本に数えるほどしかいない高レベル能力者である賢木を、バベルも重要視してくれている。
許可はあっさりともらえ、帰ろうとした矢先に皆本が当たり前のように賢木を抱き上げた。


『じゃあ帰るか賢木』
『……お前は仕事だろ?』
『子どもをひとりに出来るわけないだろ!お前はチルドレンの専属健康管理医師だし、僕にも関係はある。それに突然不調になったらどうするんだ。お前ひとりじゃ危険すぎる』

つかさっさとおろせ。
身体を捻る賢木を、皆本は鍛えられた体でしっかりとホールドする。
身長も体重も倍近く違う今の賢木では到底太刀打ちできない。


『疲れてるって自分から言うくらいだ、辛いだろ。顔色も悪いし…』
『自分で歩けるって!』
『駄目だ。子どもなんだから子どもらしくしてろ。局長、賢木は僕の家で預かります。問題はないですよね』

見た目子どもでも中身は大人なんだよっ。
賢木の叫びは、サイコメトラーではない皆本には伝わらない。
許可を得るというよりただの確認のそれに賢木はぐったりと肩を落とした。
そういえば、彼は外見に左右されやすい。
キャリーだって中身は幼子であるのに外見は立派な成人女性で、二人は恋に落ちた。(二人とも互いに本質を見抜いていたこともあるが)
チルドレン達のあの猛攻撃も子どもだから、で終わらせてしまう。(気づかないふりをしているのかもしれないけど、いつまでもそれじゃすまされないのに)

そうすると。
いくら賢木が頑張っても、皆本にとってはただの子どもにしか映らない。


(……チルドレンの気持ち、少しわかったかも……)




なし崩しに始まったザ・チルドレンチームとの共同生活に。
賢木は不安を覚えずにはいられなかった。









話は冒頭に戻る。
賢木は意識を集中させて皆本に触れる。
瞬間、脳裏に浮かぶ小学校の映像。
皆本のマンションから順々に映像が流れていくのを賢木は記憶した。

すっとその手をそのまま差し出せば、皆本は首を傾げながらも手に手を重ねる。


「いやそうじゃなくて」
「じゃあなんだ?」
「弁当寄越せ。俺が持っていくから」


高超度サイコメトラーに、あっさりと手を重ねることが出来る皆本に苦笑しながら賢木はその手を返した。
むっとした表情になる皆本を、なんとも言えぬ気持ちで見上げながら後ろにある包みを示した<。
ぽかんとする皆本に、賢木は笑いを零す。



「そんな驚かなくても良いだろ、小学校の位置はわかったから大丈夫だよ。どうせ俺は待機中 だし、何かあったら連絡あるだろうし」
「いやでも…今君は子どもなんだぞ?」
「……子どもが小学校いって何が悪い」
「行くまでに補導される可能性もあるし、着いてからもどうやってあの子達と関係を証明するんだ」

両肩を強く掴む皆本は、真剣な顔で賢木を心配している。
確かに外見は子どもだが、中身はれっきとした大人だ。
もし補導されたとしてもバベルの関係者だと言えば向こうから引き下がるだろうし、学校にだってそれで通じる。
バベルの名前をあまり出したくないというのなら、皆本の親戚とでもすれば学校を休んでいる<理由なんていくらでもある。

少々過保護すぎやしないかと賢木は溜息をつきながら、時計をさして皆本を促した。



「ほら、お前には葵ちゃんいないんだから早くしないと遅刻するぞ」
「えっ、あっもうこんな時間か!?」
「大丈夫だって。あの子らだって毎日通ってる道なんだぞ?もし何かあってもリミッター外せばなんとかなるし」

そういう賢木を、皆本は膝をついて視線を合わせたかと思うと不意に抱きしめる。
突然のことで賢木が固まるのも構わずに、皆本は腕の力を強めた。



「……それでも、お前はいま子どもだ」
「皆本……」
「大人で、ちゃんと身体を鍛えてる時と違うんだ。サイコメトラーは身を守る術が一番少ない。お前が本気を出せば心に傷を負わせることも出来るんだろうが、それは直接の接触が必要だろう。そんなことはさせられない」


ぎゅうっと、痛いほどに抱き竦められるのに賢木は言葉をなくす。
確かにサイコメトラーは、身を守れる能力ではない。
どちらかと言えば、自身に大きく影響を及ぼす力だろう。
同じサイコメトラーの紫穂は、いつも薫や葵と一緒だ。
サイコキノとテレポーター。
この二人がいれば、紫穂の身の安全は保証される。
しかし賢木は違う。
以前の大人の賢木ならば、自分の能力を熟知した上で身を守る術を手に入れていた。
今は非力な子どもであり、きっと以前との違いに苛立ちを覚えることも多いだろう。




「みなも、と」



なんと言ったものかわからなくて、賢木は皆本の名を呼んだ。
実を言えば皆本の思う方法よりも、もっと危険がなく身を守る術がある。
直接の接触は必要としない、けれど今の賢木には不安定すぎる力。

生体へのサイコキネシス、使ったらまずいよなぁ…。

広い皆本の背中に、懸命に手を伸ばしながら賢木は小さく溜息をつく。
使おうと思えばきっと使える。
けれどコントロールは出来ないだろうから、相手の命の保証はしかねない。
そのことを皆本は解った上で言ったのだろうか。
そうかもしれない。
シャラ、と手首につけたリミッターが皆本の背中で音を立てた。

リミッターをつけているのに。
読もうとしていないのに流れ込んでくる皆本の優しい感情。



傷つかないで良いんだと。
傷ついて欲しくないんだと、痛いほどに抱きしめられたところから伝わってくる。









「……大丈夫だって、」
「けど」
「今の俺がバベルの職員だってわかるやつはそれこそ関係者だけだし、パンドラの奴らも俺のことはあんま眼中にないし?普通の人々に至っては、まずわかんねぇだろ」


な?と、ぽんぽんと背中を叩けば、耳元で皆本が小さく笑う振動がした。
何がおかしかったのかと顔をのぞき込もうとすれば、抱き込まれてそれは叶わない。



「まさか賢木に子ども扱いされるなんてな」
「……お前のが年下だろ」
「でも賢木、僕と居るときはいつもより表情が幼いよ」



自覚していることを言われてしまって、賢木は思わず赤面する。
誤魔化すように視線を動かしていれば時計が目に入った。
もう用意を終わらせなければ遅刻してしまう。



「そろそろ離せよ、遅刻するぞ」
「このまま賢木も連れて行こうか。一番安全な気がするし」
「姫さん方のお昼はどうするんだ。みんな愛情弁当を食べてるのにあの子らだけなしか?」



皆本の本気ともつかない言葉に、チルドレンを引き合いに出せば皆本は腕の力は弱めないまま立ち上がる。
いきなり不安定になった足下に、バランスを崩して目の前の皆本にしがみつけばまた皆本は笑いを零した。
いささか気分を害した賢木が睨み付けるように皆本をのぞき込めば、真剣な表情の皆本と向き合うことになる。



「賢木忘れるな。今の君は子どもだから、決して無茶をするな」
「みなもと、」
「チルドレンのことは勿論心配だ。けど僕は賢木のことも心配なんだから」



そういってこつん、と額を合わせる皆本は静かな笑みを浮かべる。
じんわりとした温もりが伝わってきて、賢木はどうすればいいかわからずとりあえず頷いた。
そんな賢木に満足そうな皆本は頭をひと撫でするとようやく賢木を解放する。

そして我に返ったように慌ただしく準備を始めるのを、額に手をやった賢木は苦笑して見やった。




「ったく…。見た目は子どもだけど中身は俺なんだっつーの……」




一緒に出ようと言う皆本に、はいはいと軽く手を振って荷物をまとめる。
皆本の愛妻(きっと間違いじゃない)弁当を三つ。
バベルの支給品携帯と個人契約の携帯。
小学校でもしもの場合を考えてリミッターをもうひとつ。




「本当、甘やかしすぎだろ」

外に出て分かれる瞬間まで続くだろう注意事項を考えると溜息が出る。
けれど口元には柔らかな笑みを浮かべて。

賢木は、自分を呼ぶ皆本に返事をしてかけていった。








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有言実行がモットーです。(どの口がそれを言う)
やっちゃいました仔賢木シリーズ。
子どもな賢木先生をここぞとばかりに甘やかす皆本さんです。
甘やかすと言うよりは、心配しているんですが。

普段は心配をさせてくれるような先生ではありませんので、いつも思っていたことをこういうときに口にする皆本さん。
チルドレンを大事にしている皆本さんですが、同じぐらい賢木先生のことも大事にしてると思います。
出会った頃の荒れっぷりを考えれば。
一緒に過ごしているうちに賢木先生の取り巻く状況の酷さもしったろうし。
今は皆本がいるし、外面を良くすることを覚えたようで逆に内心をあまり見せなくなった賢木先生を心配してれば良いんだ…!
普段はそんな余裕はありませんが、子どもならチルドレンとひとまとめで面倒みられますしね!

気ままに書いていきますのでよろしければお付き合い下さいませ。
なお、こじつけ設定なのであまり突っ込まないでやってください…。


08/05/12





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